シェアードサービスセンターの構築と標準化

監査法人で公認会計士向けに「経理シェアードサービスセンターの構築」をテーマとした研修会の講師をしました。シェアードサービスは2000年前後に株式交換・株式分割といった法制度面の整備やグループ経営管理の強化を背景に導入する企業が出てきました。ただ、実際にシェアードサービスを導入した企業の中には当初狙っていた効果、例えば典型的なのは”コスト削減効果”が出ていないという課題に直面しているケースも見受けられます。

当初シェアードサービスは欧米の導入事例をみて、コスト削減の切り札と期待されて大企業を中心に導入された経営手法です。しかし、日本では長期雇用を前提とする慣行もあり短期的にコスト削減が実現しにくい環境であったり、またそもそもシェアード化以前に人員が抑制されていてこれ以上絞りようがないという環境であったりと、欧米と同じようなコスト削減を目標とすると壁にぶつかってしまうのではないかと思います。

一方でここ数年、従来よりも規模的には小さな企業グループでシェアードサービスセンターを構築したいという相談事例が増えています。これからシェアードサービスの導入を検討している企業の目的には例えば”IFRS導入に備えたグループ経営基盤の整備””業務ノウハウの蓄積””ガバナンス・リスク・コンプライアンスの強化”といったあたりを掲げることが多いようです。

経理財務領域のシェアードサービスでは事業環境の変化や業務量の増加に柔軟に対応できる経理体制の整備が本質的な狙いと考えています。推進のキーワードは標準化です。今回の研修会では経理シェアードサービスセンターの導入プロジェクトを成功に導くための勘所を4つの視点から解説しました。

  • 情報システムの視点
  • 業務プロセスの視点
  • 組織・人材の視点
  • サービス料金の視点

経理業務の標準化のコンテンツ

よく「標準化」が大事と言われますが、経理業務の標準化とは具体的に何を指すでしょうか。私が経理業務の標準化に取り組むときに伝えているのが「勘定科目」「セグメント(管理メッシュ)」「業務プロセス」「業務ルール」の4つです。グループ内で勘定科目体系の考え方を統一することで、連結決算まで含めた業務の効率化が図れると同時にグループ本社としての親会社経理部のガバナンスを強化することができます。

情報システムの統合・共通化が標準化を推進

標準化のコンテンツのうち「勘定科目」「セグメント(管理メッシュ)」「業務プロセス」は会計システムを共通化することで推進されます。勘定科目とセグメントはマスタの維持・管理を親会社の経理が握ることができ、また業務プロセスは会計システムが想定している業務運用をベースに構築されるからです。情報システム基盤とその上で稼働するアプリケーションの統合はグループのIT戦略や成熟度などについて情報システム部門と検討する内容ですが、経理財務領域のシェアードサービスセンターを構築する場合、センター運営下の業務の生産性・品質向上を目指すには、少なくとも総勘定元帳を管理する一般会計のシステムを共通化することは必須となります。

標準化が人材の流動化を可能にする

一子会社の経理とは違ってシェアードサービスセンターの規模になると色々なキャリアパスを組むことができます。業務が標準化されると標準パターンを習得すればグループのどの会社の経理業務も担当することができ、結果として一人の担当者が複数の会社を兼務したり、担当外の業務の応援をしたり、業務ローテーションによる専門家育成も進みます。