第2弾JICPA緊急開催シンポジウム「不正に対応した監査の基準の検討に向けて」に出席しました

日本公認会計士協会が主催する緊急シンポジウム「不正に対応した監査の基準の検討に向けて(第2弾)」に出席しました。

金融庁総務企画局企業開示課長を招いて11日に開かれた部会で検討した不正リスク対応の基準案について説明を受け、続いて会計士協会が用意した資料を適宜使いながら、パネリストの方たちがディスカッションをしました。
企業開示課長によれば、今月中に公開草案として公表し、パブリックコメントを募集、集まったコメントを検討して来年3月の部会で正式に承認するスケジュールで考えているとのことです。

第1弾のシンポジウムにも出席しましたが、前回とは打って変わって、今回は全体として会計士協会側がこの不正リスク対応基準に対して前向きに取り組んでいくという雰囲気がありました。これは企業会計審議会の9月25日監査部会資料「不正に対応した監査の基準の考え方(案)[以下、「考え方案」という]」で記載された内容が部会等での議論を受けて修正され、12月11日監査部会の資料「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)[以下、「基準案」」にて反映されたことで、これまで会計士協会が懸念していた内容の多くが解消されたことによります。

先日の記事では、部会に参加して意見をきちんと伝え、部会として公表される案に主張を盛り込んでもらうことが大事になってくると書きました。個人的にはこのような審議会や研究会のまとめる報告書は基本的に事務局が作成し、その事務局は官僚に任せられていますので、どこまで会計士協会の意見が取り込まれるか疑問ではありましたが、意見書の発信や緊急シンポジウムの開催など会計士協会の働きかけも有効だったようです。

(もっとも金融庁の立場からすれば、推し進めたい不正リスク対応の「基準化」が見えたわけですし、部会にとどまらず会計士協会としての意見書も受け入れ、さらに2回のシンポジウムにも参加して意見を聞いたうえでまとめたのですから、日本の監査の専門家全体のお墨付きを得たといえるのではないでしょうか)。

ともかくこの不正リスク対応基準の話は次のステップへ進むことになります。

以下、今回と次回の2回に分けてシンポジウムで理解した内容を備忘録として残しておきます。まず今回は企業開示課長からの説明の中であった考え方案から基準案への変更点と関連するコメントをまとめます。

不正リスクに対応した監査のプロセス

考え方案と合わせて提示された「不正リスクに対応した監査のプロセス(9/25 資料2-2)」にありました不正の端緒という用語ですが、すでに不正が存在するイメージを想起させるため変更し、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況となりました。また、同じ資料内で吹き出しになっていた「追加的な監査手続の結果、明らかに重要な虚偽の表示に結びつかないと結論づけるに足る十分かつ適切な監査証拠を入手した場合」を除いて不正の端緒として取り扱わなければならないというところは、実務に過度な負担を招いて現実的でないという理由で削除されました。

取引先企業の監査人との連携

前回のシンポジウムでも議論になり、また部会でも慎重な意見が多く、こちらは基準案では継続検討事項となりました。今回はこれ以上の議論もありませんでした。

抜き打ち監査について

基準案の前文では「抜き打ち監査」の実施が記載されていますが、企業開示課長からはあくまでも財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合の話であって、新聞報道であのように強調されたのは心外でした、とのコメントがありました。

監査人は、財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合には、抜き打ちの監査手続の実施、往査先や監査実施時期の変更など、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になる。

付録2について

基準案の付録2は前回も問題となりましたが、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況(考え方案では不正の端緒)の各項目について、細かい点や軽微な点は削除され、重要なものを残す方向で修正が入っています。パネルディスカッションにおける企業開示課長のコメントでしたが、この付録2をチェックリストとして使用することは想定しておらず、(監査時間の使い方として)チェックリストを消込むための時間はさけるべきであり、チェックリスト化はむしろ不適切とまでと話されていました。

適用範囲について

基準案の前文で、金融証券取引法に基づく開示企業が対象である旨、明示されました。今月公表する予定の公開草案ではもう少し具体的に記載するというようなコメントがあったと記憶しています。また、この不正リスク対応の基準は年度の財務諸表監査のみ対象とする旨もコメントがありました。四半期レビューなどへの適用は今後必要性を検討していくとのことです。

職業的懐疑心について

基準案では「職業的懐疑心」を非常に重視していて、基準案の「第一職業的懐疑心の強調」では次のように規定しています。

  1. 監査人は、経営者等の誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正リスクに常に留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持しなければならない。
  2. 監査人は、職業的懐疑心を発揮して、不正の持つ特性に留意し、不正リスクを評価しなければならない。
  3. 監査人は、職業的懐疑心を発揮して、識別した不正リスクに対応する監査手続を実施しなければならない。
  4. 監査人は、職業的懐疑心を発揮し、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を看過することがないように、入手した監査証拠を評価しなければならない。
  5. 監査人は、職業的懐疑心を高め、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断し、当該疑義に対応する監査手続を実施しなければならない。

これまでの監査基準にも職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行うことが入っていますが、今回の基準案ではさらに踏み込んで、懐疑心を監査の全過程を通じて保持し、それを発揮して、さらに高めなければならない、という形で3つの段階があることが示されています。そして前文にあるようにこの職業的懐疑心の程度は、監査人の行った監査手続で判断されることになります。