内部統制が機能不全になった影響(オリバー不正取引)

Control

内部統制は業務プロセスの流れの中で想定されるリスクを特定し、それが顕在化することを未然に防止するか、顕在化してもすみやかに発見できるように整備します。しかしそのように意図して内部統制を整備したにもかかわらず、機能しないことがあります。今日は内部統制が機能不全に陥ると、その影響として、不正は長い間発見されず、最終的に会社に与える損害は大きくなるという話です。

内部統制が実施されないリスク

業務プロセスで発生するリスクは、業務の流れの中で、複数の部門にわたって張り巡らせた統制行為によってチェックされます。

しかし、業務の実施者(=統制行為の実施者)がリスクの存在を意識していない場合は、自分が実施している業務について内部統制上の意味合いを意識できませんので、統制行為自体が実施されない可能性があります。危険なのは、リスクや統制の内容を理解している者が、そのチェックを潜り抜けるよう意図して不正な取引を流した場合には、どのプロセスでもその顕在化されたリスクが捕捉されないまま最終的に歪められた金額が財務諸表に計上されるということです。

昨年オリバーが公表した元従業員による不正行為等に係る決算訂正では、直送取引を利用した架空・循環取引が問題となっています。12月に訂正内部統制報告書、今年1月に通期の内部統制報告書で開示すべき重要な不備があり、内部統制は有効でない旨の報告書を開示しています。

背景には予算達成のプレッシャー、営業数値面に重点が置かれていた成果主義及び昇進・昇給制度、固定化されたローテーション人事などが存在しますが、ここでは業務プロセスに係る内部統制の観点から整備されていたはずの内部統制がどのように機能していなかったのかを考えてみます。

注:本記事は当該事象が一般的な会社でも起こりうる可能性を鑑み、業務プロセスに係る内部統制の観点から実務上の参考になることを目的に整理しています。特定の会社の経営管理のしくみを批判・批評することを意図したものではないことをご了承ください。

直送取引を利用した架空・循環取引

問題となった取引は、オリバーが仕入先に商品を発注して、その購入した商品を販売先である医療商社またはロケーションベンダーに売却するものの、商品自体は仕入先から納入先の医療施設に直送して設置するという「直送取引」でした。事業としてはオリバーが医療施設向けに業務用家具を販売するビジネスなのですが、実際の書類・お金の流れはロケーションベンダー及びロケーションベンダーを取引先とする医療商社が間に入っています。

この直送取引の上に、納入実態がない架空の取引を創出しています。あたかも商品の製造あるいは出荷が行われていたかのように偽装されていますが、一般的な循環取引と同様に取引関連書類は整備されています。

整備されていた内部統制と機能しなかった状況

不正取引の特殊性

当該取引について社内調査報告書(要約)では、次のように取引の特殊性を説明しています。

元営業部長は、医療福祉営業部を統括する立場にあり、部下にこれら取引に関与させることはせず、仕入先への商品発注、販売先への納品・請求書作成など元営業部長の管轄下の営業部事務職員に入力処理を行わせ、単独ですべての業務処理を実行していたものであった。この様に、不正の手口は、直送取引を利用し、出荷・納品・設置が行われていないという事実を隠し、かつ、特定取引先6 社の協力を得て、納品書、請求書等の証憑書類に基づき入出金を行い、社内において架空・循環取引であることを隠蔽していたものである。

(社内調査報告書より引用)

業務プロセスに係る内部統制の不備

元営業部長が実施した例外ルールの適用や書類の改竄に加えて、その他の内部統制も有効に機能していなかったため、不正取引が発見されず財務諸表まで計上されることになってしまいました。

下表では関連する業務ごとに、想定されている内部統制の内容とそれに対して内部統制が機能しなかった状況について、社内調査報告書から抽出・整理しています。

業務 当初想定している内部統制 機能しなかった状況
受注 営業部担当者は、取引先からの注文書の内容をみて、本社電算システムに受注入力する。 営業担当者は、取引先からの注文書がなくても、受注システムに登録していた。また、事後的に注文書を確認することもしていなかった。そのため、実在しない取引の受注を登録してもチェックがされなかった。
発注 仕入先(受注を受けた商品の発注先)のうち、継続的に取引が発生する場合は継続取引先の申請をする。 継続的取引に関する定義がないため、仕入先申請および信用調査がないまま諸口(スポット)取引先に対して、多額の仕入計上をすることが可能だった。
取引承認 個別の販売については粗利率10%未満が営業統括本部長決裁、10%以上が担当役員決裁である。 取引書類において粗利率を10%以上に設定することで、決裁権限内の取引として取り扱われ、単独で取引を実行できた。
請求 得意先に対する納品書及び請求書は管理部電算課で作成し送付する。但し、得意先からの要望で独自書式を使用する場合などは、決裁権限者の決裁のもと、営業部限りでの請求書発行も認める。 循環して戻ってきた商品の請求書に係る納品先を改竄し、得意先と管理部に対して異なる納品先を記載した請求書を発行していた。
納品 商品が仕入先から最終ユーザーへの直送となっている場合、仕入先からの納品書をもって、自社においても納品としているが、運送会社による受領書や、最終ユーザーによる受領証などによる確認をしていなかった。
支払承認 2千万以上の購買は営業統括本部長の決裁が必要である。 営業部において営業統括本部長の決裁がないまま、営業部長の承認印のみで決裁システムへ入力をしていた。管理部においても承認の不備があるにもかかわらず支払い等のその後の手続を進めていた。

影響の大きさ

監査役、内部監査によるモニタリングが不十分だったこともあり、当該架空・循環取引による過年度決算への影響は大きく、平成19年10月期から平成24年10月期第3四半期までの訂正をしています。

なお、第三者委員会の調査報告書(要約版)によれば、「内部監査と外部監査の問題点」も指摘されています。長期にわたって架空取引に気付かなかった原因と位置付けています。

(3)内部監査と外部監査の問題点
ア.内部監査の問題点
(a)オリバーでは、内部監査規程に基づき内部統制課が内部監査業務を担当する規定となっている。
(b)内部監査の実施については、期初に監査方針を含む監査基本計画書案を立案し、社長の承認を得るものとなっているが、同計画書の立案及び監査の実施は必ずしも機能していなかった。又、内部調査実施細則に基づく監査手続が不充分であった。
イ.外部監査の問題点
(a)監査法人の監査チームは、オリバーの企業風土を必ずしも理解せず、オリバーが「相対的に不正が発生しやすい環境」との認識及び「特定の個人に権限が集中している」との認識が不充分であり、そのため、リスク意識を充分に理解せずに監査業務を遂行していた。
(b)監査法人の監査チームは、オリバーに対し通常のマニュアルに従い監査をしていたが、監査に対するリスクへの対応が不充分であり、結果的に本件架空取引に気づかなかった。

(第三者調査委員会「調査報告書(要約版)」より引用)

取り組まれている改善措置

オリバーでは社内調査委員会及び第三者調査委員会の提言を踏まえ、不備の是正に取り組んでいます。
再発防止策の一環として上記に対応した是正措置は次のとおりです。

  • 営業部における発注権限を廃止し、マーケティング本部内に購買部門を設置する(受注部署と発注部署との職務分離)
  • 全ての直送取引に関し、物品の受領の確認を徹底する(納入時または事後的に検収をし、証憑の回収管理を徹底)
  • 請求書の発行を例外なくすべて管理部電算課で作成し、直接送付する(営業所における発行の禁止)
  • スポット取引に関する利用要件の限定

まとめ

上記の改善措置によって、直送取引を利用した架空・循環取引による不正行為の機会を減らすことが期待されます。

とはいえ、業務プロセス上の内部統制でできることは、不正の機会を減らすことであって、内部統制が無視されるようなこと(機能不全)が起きれば不正リスクは高まります。

そのためにも、業務の実施者(=統制行為の実施者)がリスクの存在を意識し、自分が実施している業務について内部統制上の意味合いを理解することが基本になります(このあたりはコンプライアンス意識の向上を目的とした社内教育プログラムなど全社的な内部統制の充実と合わせることで実現していくものです)。

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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