架空・循環取引における取引実態の調査(オリバー社内調査委員会)

先日エントリーしたオリバーの事案では、決算に与える影響額を算定あるいは見積もるために、取引の実在性及び架空・循環取引の特定が社内調査委員会に重要な調査事項となっていました。

今回の事例に限らず、循環取引は、内部統制上重要な役割を担う従業員等により意図的に行われ、巧妙な隠ぺい行為を伴うという特殊性を含んでいますので、内部で保管する証憑書類から取引の実在性を判別することは困難であったりします。加えて、取引先の調査協力も得にくいなど、様々な制約が発生します。

オリバーの社内調査報告書では、取引の実在性及び架空・循環取引の特定について記述がありますが、その判定ロジックがわかり易く参考となりますので、まとておきます。

社内調査における制約

本事案では、社内調査にあたって次のような制約があったとしています。

  • 元営業部長の所在が不明であるため事実認定の供述は得られていない。
  • 特定取引先6社に資料提供やヒアリングの協力を求めたが、任意の調査協力であり、利害関係が対立しているため、一部の取引先からは必ずしも十分な協力は得られていない。
  • オリバーに保管されている証拠書類について、元営業部長が一部捏造している可能性がある。
  • オリバーに保管されている証拠書類と特定取引先6社から提供を受けた証拠書類との整合性にも疑問を生じさせるものが散見される。
  • 特定取引先6社から提供を受けた証拠書類も不完全なものである可能性がある。
  • 売上記録に基づく納入場所へ現物確認を行ったが、一部施設に立ち入ることができず現物確認ができなかった。
  • 施設担当者への確認に際して記憶が定かではなかった。
  • 売上記録に基づく納入数量が現物確認の数量と一致していなかった。

(社内調査報告書より筆者にて要約)

上記について、現物確認が不十分であった取引に関しては、保守的に架空・循環取引であると認定しています。

取引の実在性及び架空・循環取引の判定ロジック

社内調査報告書によれば、次のような流れで取引の実在性及び架空・循環取引の特定をしています。

今回は問題発覚後の調査の中で実施していますが、内部監査および外部監査の実施において取引の実態に懸念が残るとき、状況に応じて取引対象物の存在を確かめる際の参考になります。

判定フロー

(社内調査報告書より筆者にて作成)

不正に対応した監査の基準の考え方(案)にあった「監査人間の連携体制の整備」について

少し話がそれますが、不正リスク対応基準の設定にあたって「監査人間の連携体制の整備」が検討されていました。最終的に決定した基準には残りませんでしたが、当初この考え方(案)に記載があった連携体制が今回の事案に適用されるとどのようになるのか考えてみます。

(そもそも被監査会社の取引先が監査を受けているか否かという話もありますが、ここでは受けていることを前提とします)

スキーム1の場合

スキーム1は、連携先の監査人に対して、被監査会社の取引先における当該取引の計上の有無を照合し、それに対して署名をしてもらうものです。
連携先の監査人の行う手続は、基本的には、不正に関連して指定された取引等について、合理的な範囲内で取引先の(本社に備えられている)帳簿に計上されているかを確かめることで済むような事実関係の照合のみを想定しています。

しかし、今回の事案でもありましたが、取引先に対して偽装された内容の書類(元営業部長によって、販売先・販売価格、仕入先・仕入価格、取引日、物件名(施設名)、商品名、数量などを指示する書類をもとに作成されたもの)をみて照合しても「一致」の結果しか出てきません。また、被監査会社と取引先との共謀があった場合には、共謀による虚偽の回答をされることもあります。

このように偽装された書類による一致や虚偽の回答に対して、連携先の監査人が署名・回答してしまう可能性があります。

スキーム2の場合

スキーム2は、スキーム1よりも深い関与で、連携先の監査人に対して不明瞭な取引等の調査等を依頼するものです。定型的な事実関係の照合結果ではなく、調査した結果を具体的に記載して法人としての見解を回答することを想定しています。

この場合も、スキーム1と同様の問題が起こるほか、仮に不明瞭な取引等を発見したとしても、今回の事案ような循環取引では、その調査結果を受けて連携先の監査人がさらに次の取引先に照会しなければなりません。循環取引の連鎖をこのスキームで対処するためには相当なコストがかかると思われます。

確定した不正リスク対応基準ではこの監査人間の連携体制の整備は含まれませんでしたが、当時検討されていたスキームには上記のような問題もありました。

まとめ

架空・循環取引は、経済的には、資金を取引先間で回すファイナンス行為です。一定の手数料が上乗せされた金額が、取引を重ねる毎に膨れ上がっていき、どこかの会社が資金不足になるまで続きます(循環取引を維持するためには、新たに資金を投入する取引先を巻き込んだりもします)。

たしかに、取引に関連した書類の不備(不整合)が架空・循環取引の発見のきっかけとなることもありますが、巧妙に隠ぺいされると発見がしにくくなります。

従いまして、業務プロセスを把握する中で架空・循環取引のリスクを感じることがあれば、状況によってはオリバーの是正措置にあるような日常的な業務プロセスにおける実在性の確認や上記のような取引対象物の確認を実施することが牽制を含め、有効となる場合もあると考えられます。