およそ4割の企業が、シェアードサービスへの業務移管前か移管と同時に「業務標準化」と「情報システムの変更」を実施

ニワトリが先かたまごが先かの話しではありませんが、シェアードサービス(SSC)の導入にあたっては、シェアードサービスの導入と業務の標準化や情報システムの統合・変更のどちらを先に実施するかという論点があります。どういう順序で取り組むのが正解というものではなく、企業の置かれている状況により変わるのですが、サービス運営の生産性および品質向上の観点からシェアードサービスへの業務移管時には改善の機会が存在することは確かだと思います。

さて、デロイトが隔年で実施しているグローバルシェアードサービスサーベイの2013年版が公表されています。これに関連して、日本ではデロイトトーマツコンサルティングより、「2013年版グローバルシェアードサービスサーベイ結果概要(抄訳版)」と「2013年版グローバルシェアードサービスサーベイにみるグローバル企業の現状(テクニカルセンター 会計情報 Vol443/2013.7およびVol444/2013.8)」という分析結果が公表されています。色々と示唆に富んだサーベイでシェアードサービスに興味がある方は一読されることをお勧めします。この中で「SSCへの業務移管のタイミングと業務標準化のタイミング」の調査結果が興味深かったので、今回はそれをご紹介するとともに、考察してみました。

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サーベイ結果

今回の引用するサーベイ結果は次の図表です。

SSCへの業務移管のタイミングと業務標準化のタイミング

この図表からはシェアードサービスへの業務移管と、業務標準化やシステム変更の取組みを、どのような順序で実施したか知ることができます。

業務標準化の内容やシステム変更の度合い(すなわち既存情報システムの一部機能改修にとどまるのか、情報システムの統合までしたのか)は不明ですが、取り組み方針は参考になります。

考察に先だって

ここでは上記図表をもとにして、考察をしてみたいと思いますが、「シェアードサービスへの業務移管」をイベントとして、「業務標準化」と「情報システムの変更」が業務移管のタイミングとどのような関係にあったのかを検討するために、考察に先だって上記の図表を次のように組み替えます。

業務標準化とシステム変更のタイミング

この表をみると、38%(およそ4割)の企業が、シェアードサービスへの業務移管前か移管と同時に「業務標準化」と「情報システムの変更」を実施していることがわかります。特に6%の会社はシェアードサービスへの業務移管前に「業務標準化」と「情報システムの変更」を実施していますが、このような企業ではシェアードサービスの導入を推進する責任者の強力なリーダーシップがあったと推測します。

なお、以下の考察では、シェアードサービス組織の対象領域として最も多い経理・財務に関するシェアードサービスを意識しています。

シェアードサービスの導入と業務標準化の関係

グループ内の複数会社における特定の業務プロセスをシェアードサービスに統合すると、シェアードサービス組織の担当者がその業務プロセスの主管者となります。委託会社の業務のどの範囲をシェアードサービス組織へ移管するか、一定の方針のもと協議をして決定しますが、シェアードサービス組織においては、担当する業務プロセスを効率よく、かつ効果的に管理するために、委託会社の業務活動を含む全体の業務プロセスを鳥瞰して、その生産性や処理の適正化を図ることが必要になります。

今回の調査ではシェアードサービス組織への業務移管の前または同時に業務標準化をした企業と、シェアードサービス組織への業務移管後に業務を標準化した企業はそれぞれ50%で同じ割合でした。

業務標準化のタイミング

委託会社の業務運用が、業務移管前にどのような状況であるかによってタイミングは変わりますが、シェアードサービスの導入と業務標準化の関係で重要なことは3つあります。

  1. シェアードサービスの導入に至るどこかの過程において、プロセス・リデザイン(業務再構築)の機会が存在する。
  2. 委託会社の現行業務をそのまま受け入れると負荷が大きく非効率な業務プロセスについては、シェアードサービス組織の管理下で運営するために早めに標準化する。
  3. シェアードサービス導入前に業務プロセスを再構築するだけではなく、導入後においても継続的に業務改善(標準化)を推進する。

委託会社とシェアードサービス組織間の業務の切り分けでは、委託会社における業務移管前の役割分担がそのままシェアードサービス組織との役割分担となる必然性はなく、全体の業務プロセスを鳥瞰して生産性の向上や処理の適正化を図ります

シェアードサービスの導入と情報システムの関係

シェアードサービスを導入する時に実施される業務再構築では、業務上の問題点やニーズを解決するために、情報システムに対する改善要望が発生することがあります。さらに、シェアードサービスを導入する以前のグループの情報システムの環境は、複数のシステム基盤・情報システムが混在することも多く、シェアードサービス化をきっかけに、サービス運営の生産性および品質向上の観点から、シェアードサービス組織が使用する情報システムの数を限定する、すなわち情報システムの整理・統合を実施することもあります。

これらのことから、情報システムがシェアードサービス運営を成功に導くための重要なインフラとして機能していることがわかります。

今回の調査ではシェアードサービス組織への業務移管の前にシステム変更した会社は19%、業務移管と同時にシステム変更をした企業は39%、そしてシェアードサービス組織への業務移管後にシステム変更した企業は42%でした

システム変更のタイミング

どのシステム変更タイミングが正しいという答えはありません。重要なのは、自社の全社的なIT戦略・成熟度等を理解したうえで、利用可能な情報技術に投資し、これを活用することであるといえます。

シェアードサービス運営下で運用することができるシステム基盤・情報システムはできるだけ数を少なくした方が良い

今回のサーベイでは単なるシステム機能の改修なのか、システムの整理・統合まで実施したのかは不明です。ただ、シェアードサービス運営下で運用することができるシステム基盤・情報システムはできるだけ数を少なくした方が良いです。というのも、数が増えれば増えるほど、シェアードサービス要員が習得しなければいけないアプリケーション操作が増え、またシステムが異なるために業務運用の共通化が図りにくく、これによって兼務体制や応援体制が組みにくいばかりか、担当者のローテーションができない固定化された体制となってしまう可能性があるからです。

経理財務機能のシェアードサービス組織では1つの基盤上で5つか6つの情報システムで運営できると思います。例えば、共通の一般会計システム、固定資産専用システム、ワークフローシステム、連結会計システム、BIシステムなどにより構成される例があげられます。

もっとも、このためにはシステムを整理・統合する作業が必要になってきます。今回のサーベイでは「システム変更」という括りですが、半数以上の企業がシェアードサービス組織に業務を移管する前または移管すると同時にシステム変更を実施しています。

システムを統合すべきかどうかの判断は、システム入替・改修に要する期間と予算、現行システムの稼働状況と方向性といった要素も関係してきますので、一概に統合すべきかどうか、統合するならばいつが適切かといったことは一律示すことはできません。

会計システムを統合するメリット

ただ、経理・財務領域のシェアードサービスの場合、グループ企業のうちシェアードサービス組織へ業務を集約することにした企業群については、少なくとも一般会計(総勘定元帳)のシステムは統合すべきかと思います。一般的なメリットも含めて次のようなメリットが考えられるからです。

  • 標準化した勘定科目コードなどコード類、業務ルールの維持管理がしやすい。
  • 一般会計システム⇒連結パッケージ⇒連結会計システムの連携が迅速化される。
  • グループ間取引の把握や自動化が可能となる(利用形態による)。
  • 経営管理情報の提供が迅速化される。
  • 情報システムの重複投資を避けることができる。
  • 将来的な共通システムの入替時のユーザー要件を会社ごとにしなくて済む(シェアードサービス組織1か所)。

システム統合のタイミングとメリット・デメリット

シェアードサービス組織への業務移管とシステム統合のタイミングの組み合わせパターンごとにメリットとデメリットを整理すると次のようになります。どれが正しいアプローチというのはありませんし、また、実際にはこれらの組み合わせになることもありますが、考え方の整理になると思います。

  パターン メリット デメリット
業務移管と
システム統合のタイミング  
初期の段階で情報システムを構築し、その後シェアードサービス組織に業務移管する インフラの構築が済んでいるため、シェアードサービス組織への業務移管時に複数委託会社の同時受入をしやすい。 シェアードサービス組織への業務移管までを含めた目的達成に長い時間を要する。プロジェクト責任者の継続関与や資金面での問題が生じる可能性がある。
シェアードサービス組織への業務移管と情報システム統合・改修を同時に進行する。 シェアードサービス組織への業務移管に伴う業務見直しと関連した情報システムの入替・改修要件が同時に実施できるので、委託会社にとっては1回のインプリメンテーションでシェアード化とシステム構築が実施される。 システム構築が遅れるとシェアードサービス組織への業務移管が遅れる(逆もあり)。システムの入替・改修要件が個別対応になると投資額が増大する可能性がある。
最初にシェアードサービス組織に業務を移管し、その後情報システムの統合・改修をする。 シェアード化によるアーリーウィンが期待できる。システム投資前に業務の標準化ができれば投資コストを抑えることができる。 シェアードサービス組織への業務移管による業務見直しに対して、現行システムによる過渡的な対応が発生する。

以上、グローバルシェアードサービスサーベイの図表をベースにした考察でした。

最後に

サーベイによれば、およそ4割の企業が、シェアードサービスへの業務移管前か移管と同時に「業務標準化」と「情報システムの変更」の両方を実施しているということですが、日本企業が取組むシェアードサービス化と比較して多いのでしょうか。

デロイトのレポートではグローバル企業がシェアードサービス化によって達成した成果が色々と記載されており、その点を受けて、デロイトトーマツコンサルティングのコメントでは次のような記述をしています。

(前略)SSCのグローバル化に本格的に取り組んでいる日本企業は未だ少なく、多くは過去の延長線上での取り組みにとどまっているように見える。今回の連載で述べたように、グローバル企業におけるシェアードサービスの取組みは、日本企業の遥か先を行く。(後略)
(2013年版グローバルシェアードサービスサーベイにみるグローバル企業の現状(テクニカルセンター 会計情報 Vol444/2013.8)より引用)

まだまだ、日本におけるシェアードサービスへの取組みにはグローバルの視点で取り組まれていないとのことです。関連する書籍はこちらから。

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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