新規上場会社が経営管理機能などをアウトソーシングするには(KYCOMホールディングスの事例にみる留意点)

先週10月25日(金)に証券取引等監視委員会からKYCOMホールディングス株式会社に対して、有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告が行われました。2013年3月期の内部統制報告書で開示すべき重要な不備があり内部統制は有効ではないとの評価結果を報告したKYCOMホールディングスにおける不備の内容は、会計基準の理解と開示必要性の認識が不足していたというものですが、個人的には会社が決算プロセスの一部をアウトソーシングしていたことに注目しました。

なぜなら、このところ新規上場会社の上場審査において、経営管理機能や内部監査業務のアウトソーシングを容認する方向になっているからです。今回は、KYCOMホールディングスの再発防止策の中にみる管理体制の見直しを確認するとともに、上場企業が決算プロセスの一部をアウトソーシングする場合の留意事項について検討してみます。

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上場会社の内部管理体制とアウトソーシング

上場会社には、適切な開示を可能とする管理体制やコーポレートガバナンス・内部統制報告制度対応を含む内部管理体制など、いわゆる内部の「管理体制」を整備することが求められます。

新規に上場を目指す会社も上場するための適格要件の一つとして、内部の「管理体制」の整備に取り組む必要があります。以前はこの管理体制を自社内部に構築することを前提に上場審査も行われていた、つまり上場会社であれば自社で決算・開示体制を組むことが当たり前という環境にありました。

ところで、自社の業務の一部をコスト削減目的などで外部に委託するアウトソーシングの利用は以前から行われていましたが、近年では自社の経営資源をコアとなる事業に集中し、ノンコアの事業については経営効率化の観点からアウトソーシングするというように戦略的に利用する企業も増えています。

そのような利用形態の中では、経営管理業務(財務・経理、人事総務、IT管理など)や内部監査業務など、委託する業務機能も多岐にわたっているのが実態です。

このところの新規上場会社の上場審査が、アウトソーシングを利用しているイコール内部管理体制が構築できていない、ということで即問題視することがなくなったのは、このような背景があるからです。上場審査の中でも、会社が採用する事業戦略によってはアウトソーシングの利用が有効であり、その場合にアウトソーサーと一体となって自社の「管理体制」を構築できているかどうかが問われることになります。

新規上場会社がアウトソーシングを利用する場合の考え方

新規上場会社の上場審査において、証券取引所がアウトソーシングの利用をどのように考えているのか、東京証券取引所の「上場の手引き(マザーズ)」を参考に見てみます。まずは、内部監査業務のアウトソーシングについてです。

(6)内部監査について(事前チェックリスト2(5))
Q13:当社は従業員数が少数であり、事業運営も1箇所で行っているため、独立した内部監査部門を有していません。事前チェックリスト2(5)③に「内部監査部門を設けていない場合は、代替的な手段をとっていますか。」とありますが、ここでいう代替的な手段とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
A13:一般的には、内部監査人として適切と考えられる方を任命し、内部監査を行わせます。ただし、その方の所属部門については、他の部門から内部監査人を任命し、内部監査を行わせることとなります。その他、内部監査業務をアウトソーシングすることも考えられます。その場合には、内部監査業務をアウトソーサー任せにせず、社長等が内部監査の重要性を認識したうえで主体的に関与しているかどうかを確認します。
(上場の手引き(マザーズ) P96より引用 太字は筆者)

内部監査業務のアウトソーシングも想定していることがわかります。ポイントは主体的に関与しているということです。次は、経営管理機能のアウトソーシングについてです。

9)その他経営管理上の留意点について(事前チェックリスト2(8))
Q18:事前チェックリスト2(8)③に「経営管理機能(総務部門・経理部門など)の一部を外部委託している場合でも、当該委託業務に関する管理・情報分析・説明を自社の責任において適切に行うことができますか。」とありますが、業務の一部を外部委託することについて、問題はありますか。
A18:・・・上場審査において、アウトソーシングすること自体を審査上直ちに問題視するものではありませんが、例えば総務・経理部門の一部をアウトソーシングした場合でも、正確性や秘密保持を担保するとともに、アウトソーシング先(以下「アウトソーサー」といいます。)から入手した資料を自社で分析できる体制が整っており、かつ情報取扱責任者が責任をもって開示できる体制になっていることなどが必要と考えています。さらに、万が一従来のアウトソーサーへ業務委託を行うことが困難となった場合の影響や対応についても、事前にご検討いただく必要があると考えています。・・・
(上場の手引き(マザーズ) P98より引用 太字は筆者)

経理部門の一部をアウトソーシングすることも想定しています。アウトソーサーは契約に基づき業務を遂行し、その中には適切な内部統制も構築する必要がありますが、上記のポイントは、委託する側は、アウトソーシングしても、内部統制(コントロール)機能やアカウンタビリティ(説明責任)は自社内に残る、ということです。

KYCOMホールディングスにおける管理体制

今回の事案で、KYCOMホールディングスが不適正開示の発生原因とした管理体制として、全般的な経理業務のチェック体制は次のようなものでした。

  • 当社は当社子会社共同コンピュータ㈱に連結会計処理をアウトソーシングしており、
  • 共同コンピュータ㈱では、連結会計処理に関する専門的知識を有する人材は1名しかおりませんでした。
  • 当社には、従来専任の経理担当役員が選任されておらず、
  • また、連結会計処理を統括する部署がありませんでした。
  • 当社の開示担当者は当社執行役員が兼務し、体制上1名しかおらず、・・・

(KYCOMホールティングス株式会社 改善報告書P17より抜粋・引用、筆者にて箇条書き化)

KYCOMホールディングスにおける以前の決算・開示体制の構築経緯は、改善報告書からわかりませんが、上記のような管理体制の状況下で、遡及期間が7会計年度に及び、会計監査人からの指摘事項が次から次に増加していったことと重なったため、開示スケジュールが大幅に遅れてしまいました。その結果、会計監査人及び監査役会の会社法の監査報告書がないまま、定時株主総会を開催するという異例の事態となりました。

KYCOMホールディングスにおける管理体制の見直し

KYCOMホールティングスでは今回の不適正開示の発生原因となった管理体制の不備に対して、次のような改善案をあげています。

  • 経理実務担当者には、監査法人等主催のセミナー等に積極的に参加し、・・・。また、連結会計処理に関する専門的知識を有する人材を増やします。
  • 経理担当役員に**取締役を選任いたしました。
  • 今後社内体制として当社内に経理部を新設いたします。
  • 新設経理部に執行役員経理部長を配置し、グループの経理担当者(計7名)を統括する体制を整備いたします。
  • (KYCOMホールティングス株式会社 改善報告書P19より抜粋・引用、筆者にて箇条書き化及び一部変更)

新規上場会社(上場会社含む)においてアウトソーシングを利用している場合の適切な決算・開示体制のあり方は、会社の事業内容や規模、組織形態、アウトソーシングしている業務内容など個別ケースによって変わってきます。ただ、「アウトソーシングしても、内部統制(コントロール)機能やアカウンタビリティ(説明責任)は自社内に残る」ということを念頭において、またそのアウトソーサーへ業務委託を行うことが困難となった場合の影響や対応など想定できるリスクも検討しておくことが肝要です。

新規上場会社がアウトソーシングを利用する場合の考え方

新規上場会社にとって、決算業務や開示活動、内部統制報告制度の運用など内部で管理体制を整備するのは時間もかかるため、上場スケジュールを検討する中でアウトソーシングを利用することも有効な選択肢になります。

一般にアウトソーシングを利用することによって、人材調達や採用に関する時間とコストが削減できますし、専門家に委託することによって効率的な業務プロセスを導入することもできます。

しかし、その一方で委託した業務に関する知識・ノウハウは自社内に蓄積されることはなく、また機密保持に労力が必要であったり、長期的なパートナーシップとなることにもリスクがあったりします。

理想的にはアウトソーサーに何かあった場合に、最悪自社で内製化できることかと思いますが、新規上場会社においては(経験者を採用しない限り)初めて経験する業務ですので難しいかもしれません。また、アウトソーサーとの契約の中で自社の要員に対するスキルトランスファーを含めて委託することも考えられます。

いずれにしても最低限の対応として、自社内の要員でアウトソーシングしている業務内容の理解と必要な判断ができるように継続学習をしておくことと、いざという時の代替委託先候補に関する情報収集をしておくことが必要と思われます。

東京証券取引所では、新規上場会社がアウトソーシングの実施を検討する場合に、主幹事証券会社や監査法人などに相談したうえで、以下のようなことに留意するよう伝えています。

a.主体は申請会社
どのような業務をアウトソーシングするにせよ、事業遂行のための意思決定、戦略立案など会社としての方向性を決定する最終的な判断は申請会社自身が行うべきものと考えています。また、アウトソーシングした業務内容、アウトソーサーから入手した資料に対する理解は当然のことながら申請会社自身ができることが前提であり、また、アウトソーサーが行う業務内容の評価などの管理を定期的に自社が主体となって行うことも必要です。
b.適切なディスクロージャーへの対応
法令等に基づくディスクロージャーや決算短信などのタイムリーディスクロージャーに密接に関連する業務の一部をアウトソーシングする場合には、適時・適切な開示に支障のないような体制を確保することが必要です。
c.インサイダー取引規制への対応
業績に関する情報など、重要事実に該当する情報をアウトソーサーが外部公表前に知り得ることができる場合には、機密保持契約を締結するなど、情報の漏洩を防止するための適切な手段を講じる必要があります。
d.アウトソーサーの適切な選択
アウトソーサーへの業務遂行が安定的かつ継続的に実施されるべく、信用力や実績のあるアウトソーサーを選定すべきであり、また、万が一アウトソーサーへの業務委託が継続できなくなるような状況が発生した場合に備えて代替先の確保が容易に行うことができるか、もしくは会社内部での対応にすみやかに切替えることが可能であるかなどの体制整備をする必要があります。
(上場の手引き(マザーズ) P99より引用 太字は筆者)

(本記事は、このような事例が一般的にも起こりうることを鑑みて、上場企業が決算プロセスの一部についてアウトソーシングを検討する際の参考になることを目的として書いています。特定の会社の経営管理のしくみを批判・批評することを目的としていないことをご理解ください。)

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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