決算早期化「30日以内開示」と不正リスク対応基準の影響

この3月期は「監査における不正リスク対応基準」の適用初年度にあたります。先月25日に日本公認会計士協会から会長声明として、『今3月期の「監査における不正リスク対応基準」への対応及び会社法監査における十分な監査時間の確保について』が公表されました。後者の会社法監査における日程の問題は、不正リスク対応基準ができたからということでは必ずしもありませんが、会長声明の中で決算発表の早期化との関連で触れられています。決算早期化で目標として多く掲げられる「決算日後30日以内での開示」をするためには、監査日程の調整が必要となりますが、会長声明では決算発表の早期化に呼応した安易な監査日程の短縮をすることがないようにとのことです。今回は決算早期化の目標において大きな影響を与える東京証券取引所の早期開示に対するスタンスを振り返りながら、今回の会長声明が決算早期化に及ぼす影響を考えてみました。

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決算早期化のプロジェクト目標はわかりやすい

プロジェクト活動においては、目標を設定しますが、それは目標があることによって、プロジェクトが成功したかどうかを判断することができるからです。目標はその設定する内容から、定性的なものと定量的なものに分かれますが、プロジェクトの成否を判断するには定量的な目標の方が向いています。

一方で、定量的な目標は、例えば、生産性向上やコストの削減を目的としたプロジェクトなどを想像するとわかりますが、その評価指標の設定や達成値の測定方法が難しいことも少なくありません。

これに対して、決算早期化のプロジェクトは「特定の決算情報を決算日後○日で作成する」というわかりやすい目標が定量的に設定されます。したがって、本番の決算期においてプロジェクトの成否が明確になり、かつプロジェクトに関与した者にとって達成感を得やすい性質を持っています。

決算早期化の目標値として「決算日後30日以内の決算発表をする」ことが目標として浸透した背景

このように定量的な目標を設定しやすい決算早期化プロジェクトですが、上場会社が決算早期化のプロジェクトに取り組む場合に、目標として最も参照されるものが、「決算日後30日以内に決算発表をする」というものです。これは東京証券取引所をはじめとする市場からの要請によるものですが、決算早期化のプロジェクト目標として「30日以内発表」が浸透した背景には、東京証券取引所によるこれまでの早期開示の要請の変遷にみてとれます。

30日以内発表を積極的に推奨していた時期(2000年頃~2006年)

東京証券取引所が、決算日後30日以内に決算発表をする会社を「早期発表会社」として公表し、他の上場会社もそれに追随するように後押ししていた時期です。下の図表は東京証券取引所が毎年公表している決算短信の発表状況の集計資料のうち、「平成15年3月期の決算発表状況等(連結)の集計結果について」から引用したものです。この時期は東京証券取引所が30日以内発表を積極的に推奨していた時期と言えます。

早期発表会社1
早期発表会社2

早期発表を達成した年に、前年比較で2週間以上の日程短縮を達成した企業も少なくないことがわかります(割愛しますが、平成14年3月期のデータでも同様の傾向です)。
上記2003年のあとも早期発表会社数は増加しますが、その後、全体として30日以内発表が当たり前になったかといえば、ノーです。統計的には2006年3月期以降現在まで、東京証券取引所に上場する3月決算会社で、全体の20%前後が早期発表するにとどまっています。

30日以内発表が望ましいと(消極的に推奨)するようになった転換期(2006年~2008年)

東京証券取引所は決算短信の総合的な見直しをする中で、30日以内開示の義務付けをするかどうか検討をしていましたが、その検討の中では決算早期化が求めるスピードと財務報告の信頼にかかわる正確性(または財務報告の作成者への負担)とのトレードオフにそのスタンスを定めかねていました。最終的には、2006年に決算短信の総合的な見直しに係る決算短信様式・作成要領を公表し「期末後45日以内での開示が適当であり、30日以内(期末が月末の場合は翌月内)での開示がより望ましい」とするスタンスをとりました。30日以内開示を義務付けしないものの、まだ早期開示の後押しをしているニュアンスが残っています。

以下では少し長くなりますが、上記検討の過程として2006年3月に東京証券取引所が開催した「決算短信に関する研究会(第7回)」の議事要旨から決算早期化に関連した記述を抜粋・引用しておきます。

開示内容を見直した結果として早期開示を促進すると整理されているが、実際はそれほどの簡素化はされていない。むしろ、業績予想のように開示内容が追加されている部分もある。50日を超えている会社を45日以内とすることはよいが、45日を30日以内にすることや、東証が分散開示を促進することは、作成者に過剰な負担を強いるものであり、報告に盛り込むことは適当ではない。

企業としては間違えず数字を作る努力はするし、ある程度監査は入るので、実質的に問題はないと思われるが、一義的には、開示時期を30日以内とした場合、監査を終わらせることはまず不可能であり、数字の信頼性が低下することが懸念される。監査が終わらない中、ある程度網羅性がある決算数値を開示するためには、内部統制の整備が前提となるのではないか。内部統制が整備される時期と合わせて適用時期を検討することが望ましく、報告に付記することが適当である。

30日以内の開示が望ましいという表現を削ることとしてはどうか。監査が終わらない中で発表することは可能であるが、後で数字の誤りが判明する会社が出てくることは避けなければならない。45日以内に開示することが望ましいという表現のみとすべきである。

早期開示が望ましいのはいうまでもないことである。30日という日数は非現実的な日程ではないと思う。「30日以内が適当である」という表現なら厳しすぎるが、「30日以内が望ましい」とする方向を盛り込むことが望ましい。決算発表に対して無限のコストをかけられないことも事実であるが、万人が納得するような特有の事情はないのではないか。

銀行などを除き、大企業は4月中に開示が終わっているのが実情である。それ以外の会社において、早期開示している会社に倣っていくことを促すことが基本である。

早期開示にあたって、決算数値の信頼性に留意する必要がある旨の記載があり、信頼性の確保も担保されている。ある程度早い日程を望ましい目標として示しておくことは望ましい。

30日以内での開示が望ましいという結論が報告に盛り込まれた場合、将来的に30日以内に開示しなければならなくなるという印象を持たれる可能性がある。内部統制の実現を待ち早期化を期待しているのか、あるいは、純粋に早期開示が望ましいという考え方なのか、スタンスを整理する必要がある。

年次決算のみ30日以内発表が望ましいとする(企業側の自主性に委ねる)ようになった時期(2008年~現在)

2008年4月から四半期報告制度が導入されるようになり、中間決算短信に代わって、四半期決算短信が開示されるようになりました。当初、東京証券取引所では四半期の決算短信について「30日以内発表が望ましい」としていました。おそらく、年次決算で30日を超えて決算発表している会社が、早期開示に向けて、段階的に四半期決算から30日開示をしてもらう意図もあったと思います(もともと年次決算について既に決算日後30日以内に決算発表をしている会社は、四半期決算も30日以内に発表できるはずですので)。

しかし、最終的に企業側の実務負担の増加と市場ニーズを比較して、四半期決算開示に関する早期開示目標を取りやめました。2010年4月に公表した「四半期決算に係る適時開示の見直し、IFRS任意適用を踏まえた上場制度の整備等について」に関する概要説明の中では、次のように記載しています。

四半期決算情報について従前示していた早期開示目標(30日以内)は取りやめることとします。ただし、上場会社内部における重要情報の滞留を速やかに解消する観点から、より早期の四半期決算情報の開示が望ましいとする要請は継続します。

つまり、現在、決算早期化について30日以内での開示という定量的な目標は、年次決算のみ対象となっています(四半期決算について明示的な定量目標はありませんが、金商法の四半期報告書が45日以内の提出期限ですので、決算短信も当然45日以内で開示されることになります)。個人的には30日以内を積極的に推奨してきた時期に比べて、東京証券取引所の早期開示に対するスタンスはかなり後退したと考えています。

このことから、企業にとって、今まで以上に何のために決算早期化をするのか、30日以内の決算発表に取り組む理由を明確にする必要が強まったのではないでしょうか。

不正リスク対応基準が決算早期化に与える影響

上記に加えて今回の会長声明では、不正リスク対応基準の導入にあたり、会社法監査における会計監査人の監査報告の規定を例にあげて、次のように述べています。

・・・規定上はこれらいずれか遅い日まで監査時間を確保することが保障されている。しかしながら、実務上、会計監査人の対応としては、会社の決算発表の早期化に呼応して監査期間の短縮化を図り、法定の期限前に会計監査報告の内容を通知する場合がある。このため、法定の期限前に会計監査報告の内容を通知する日程で期末監査を計画している場合、個々の状況に応じて監査上適切な対応ができるか否か、今一度監査日程を見直し、状況次第では監査日程を修正することも必要と考えられる。・・・

素直にこの声明を読めば、会社法の規定に則って監査時間を確保すれば決算発表は5月に入ってからになるのが通常である、そして、このたびの不正リスク対応基準に対応するためには十分な監査時間を確保しなければならない、したがって30日以内開示に対応するための監査日程の短縮は慎重にしなさい、となります。決算早期化について30日以内での開示をするためには、監査日程の調整が必要となりますが、決算発表の早期化に呼応した安易な監査日程の短縮は難しくなった感じです。

もっとも、既に決算日後30日以内に決算発表をしている会社では、会社と監査人が相互に工夫をして今の早期開示のしくみを作り上げていますので、不正リスク対応基準に対応するために必要な措置を現在のスケジュールで吸収しようとする、すなわち監査の質またはリソースの問題として対応する(監査日程の修正にまで及ぶ対応をすることはまずない)のではないかと思います。このような実務上対応が新たに30日以内開示を目指す企業にも参考なるのだろうと思います。

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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