内部統制の不備が是正されたかどうかは主観的な判断

内部統制の不備を改善した場合、改善後の内部統制が継続して有効に機能していることをテストして確かめる必要があります。

以前、当ブログでもご紹介したクリーク・アンド・リバー社の事案では、調査報告書受領時点で、事業年度末まで約5ヶ月の期間が残されていました。同社では、すみやかに再発防止に着手することによって、是正後の内部統制の運用期間として3ヶ月を確保しています。

その結果、同社は是正後の運用状況の評価を経て、通期の内部統制報告書では有効との評価結果を表明しました(参考記事:内部統制の不備の改善と運用期間・評価(クリーク・アンド・リバー社)

ところで、クリーク・アンド・リバー社の事例と比較して、過去に不正会計によって開示すべき重要な不備を公表した企業が、その後の通期の内部統制評価において公表した評価結果を見てみると、同じような是正期間でも評価結果が異なることに気付きます。何を根拠として不備が『是正された状態』と判断するのか、内部統制報告書の記載例を通じて感じたことを、今回はご紹介します。

good question

残された不備の是正期間と経営者の評価の関係

一般的に不正等による内部統制の不備の対応において、内部統制のデザイン自体を見直す場合、通常3ヶ月程度の運用期間をもって業務が安定したと言えるケースが多いと思います。その前の段階には、再発防止策の検討と実行が必要で、不備の程度によりますが、1~2ヶ月は最低必要ではないでしょうか。クリーク・アンド・リバー社の事例をご紹介したのは標準的な不備の是正期間(調査報告書の受領を基準とした場合5ヵ月)をもった事案として参考になるからでした。

しかし、実際には内部統制の評価基準日(期末日)までに残された期間が5ヵ月を切ることもあります。年度で計画した運用状況評価において発生した不備ならまだしも、不備の原因が、その発覚時期がいつになるかわからない不正の場合には、残された是正期間をコントロールすることはできないからです。

ところで、実施基準では、「開示すべき重要な不備が発見された場合であっても、それが報告書における評価時点(期末日)までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができる[II3.(5)]」とされています。つまり、経営者による評価の過程で発見された(開示すべき重要な)不備は、適時に認識し、適切に対応されればよく、是正期間は事業年度末まで最低Nヶ月必要であるみたいな規定はありません。

是正されていれば、とは

ということは、”評価基準日(期末日)までに是正されていれば”というところの『是正された状態』が問題となります。ある程度継続的な取り組みが必要な課題が、開示すべき重要な不備ですので、およそ次のような段階を経て是正されます(不正に起因して内部統制の開示すべき重要な不備を公表したケースを想定)。

  1. 調査報告書などで再発防止策の提言があったとき
  2. 調査報告書などの再発防止策の提言を受けて、社内で再発防止へ向けた是正計画を作成したとき(誰が、いつまでに、何を実施するのか)
  3. 再発防止策が実行され、是正後の内部統制が整備されたとき
  4. 是正後の内部統制が一定期間運用されたとき
  5. 是正後の内部統制が継続して有効に運用されていることを経営者が評価したとき

クリーク・アンド・リバー社では1が平成25年9月27日、2および3が翌10月~11月、4が12月から平成26年2月(決算月)、5が翌3月~4月でした。評価作業は期末日後であっても、その評価結果が有効であれば、期末日時点で内部統制が有効に機能していたといえますので、4の段階、すなわち是正後の内部統制が一定期間運用されたときに、評価基準日(期末日)を迎えることがポイントになります。

以下では、公表されている事項から比較可能性を確保するために、是正に要した期間を次のように定義します。

是正期間=調査報告書の受領日から期末日

再発防止への取組み時期は若干前後すると思われますが、再発防止策の提言が正式に会社へ渡った調査報告書の受領日をベースに簡便的に是正期間とみなします。
ちなみに上記クリーク・アンド・リバー社の「5ヵ月」は、次のように計算しています。

是正期間=調査報告書の受領日(平成25年9月27日)から期末日(平成26年2月28日)=5ヵ月

是正期間別の内部統制報告書の記載例

以下では、是正期間「5ヵ月未満」と「2ヶ月未満」の2つのグループで、通期の内部統制報告書から経営者評価の結果と記載内容を引用します(太字は筆者)。同じぐらいの是正期間で経営者の評価結果が有効とする会社と開示すべき重要な不備ありとする会社がそれぞれ存在します。

是正期間が5ヵ月未満の事例

会社名
調査報告書受領日
期末日
是正期間
経営者の評価結果
【評価結果に関する事項】または【特記事項】より引用
コーナン商事
2013/11/6
2014/2/28
4ヶ月
開示すべき重要な不備
当社としましては、財務報告に係る内部統制の重要性を認識しており、財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備を是正するために、再発防止措置を講じて、内部統制の改善を図り、当事業年度末時点において概ね整備は完了しておりますが、十分な運用期間を確保することができなかったため、上記の全社的な内部統制の不備が解消したといえる状況に至っていないものと判断しました。翌事業年度においては、再発防止措置の適切な運用を通じて、財務報告に係る内部統制の不備の改善を図ってまいります。
サニックス
2013/11/12
2014/3/31
4.5ヶ月
有効
当社は、当事業年度に判明した、連結子会社である株式会社サニックスエンジニアリングの売上計上等に係る業務プロセスにおいて不備があったことにより、不適切な会計処理が行われたことを受け、「平成26年3月期第1四半期における訂正四半期報告書」及び「(訂正版)平成26年3月期第1四半期決算短信」を提出するとともに、当該期間における内部統制の一部に重要な欠陥または開示すべき重要な不備があったとし、第35期内部統制報告書(自平成24年4月1日至平成25年3月31日)の訂正報告書を平成25年11月12日付で提出しています。
その後、当該訂正報告書に記載していますとおり、当社は以下の再発防止策を講じ、適正な財務報告に係る信頼性の確保に努めてまいりました。
(1) 子会社におけるコンプライアンス意識の向上と社内ルールの徹底を図る
(2) 内部監査室の強化を図り、モニタリング体制を向上させる
(3) 売上計上、棚卸資産管理に係る業務プロセスにおける内部統制の整備及び改善
その結果、当事業年度末時点において、開示すべき重要な不備は是正され、当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断しました。今後、これまでの取り組みを継続的に運用するとともに、全社を挙げた社内ルールの適正化への取り組みにおいて、関係者の皆様からの信頼回復に全力を尽くしてまいります。

是正期間が5ヵ月未満の事例

会社名
調査報告書受領日
期末日
是正期間
経営者の評価結果
【評価結果に関する事項】または【特記事項】より引用
リソー教育
2014/2/10
2014/2/28
0.5ヶ月
開示すべき重要な不備
事業年度末日までに是正できなかった理由
本件発覚以降、当事業年度末日までに十分な整備・評価期間を確保できず、当該開示すべき重要な不備を是正することができませんでした。
東テク
2014/3/13
2014/3/31
0.5ヶ月
開示すべき重要な不備
本件発覚以降、当事業年度末日までの時間的制約もあり、開示すべき重要な不備を是正することができなかったため、当事業年度末日における当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断いたしました。
ネッツエスアイ
2014/2/13
2014/3/31
1.5ヶ月
有効
当社は、当事業年度に発覚した、当社連結子会社であるネッツエスアイ東洋㈱の一従業員による不正行為を受け、平成21年3月期から平成25年3月期までの財務報告に係る内部統制の一部に開示すべき重要な不備があったものとし、当該期間の内部統制報告書の訂正報告書を平成26年2月14日に提出しております。
当社は本件を厳粛に受け止め、下記の改善策を実施いたしました。
① コンプライアンス教育の強化
② 内部通報制度の活用促進
③ 内部監査機能の強化
④ 当社グループとしての横断的人事ローテーションの実施
⑤ グループ会社における経理・財務業務の職務分離の徹底
その結果、当事業年度末時点において、開示すべき重要な不備は是正され、当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断いたしました。
今後もこれまでの取り組みを継続実施するとともに、子会社管理体制の強化に向けさらなる改革を実施し、当社グループの全役員および全従業員が一丸となって、信頼回復に努めてまいります。

内部統制評価は主観的なもの

実際の内部統制報告書の記載例を見ても、不備の是正期間の長短と経営者評価の結果の間には、Nヶ月未満だから不備は是正未了という杓子定規的な判断はないことがわかります。
その代り、不備の是正期間が短いにもかかわらす、経営者評価の結果を有効とした会社(上記のサニックスやNECネッツエスアイ)は、そうでない会社との比較で、是正完了に強い意志を感じます。

例えば、サニックスでは、おそらく是正が完了していることを確認するための手続(運用期間、サンプル件数、テスト方法など)については監査人と早めに協議したと思われます。

また例えば、NECネッツエスアイでは、過去5期分の内部統制報告書を訂正していたのですが、連結子会社の一従業員による不正という前提で、影響は限定的(組織的な関与はない)かつできる打ち手を早急に実施したことで是正されていると判断したと思われます。(これらは、もちろん、推測になります)

今回取り上げた事例は5社分だけですが、これらの事例をみて感じたのは、内部統制の経営者評価は主観的なものだということです。何を根拠として『是正された状態』とするのかといえば、経営者がこれでよい、ここまでできれば十分としたラインになります。

その点で、クリーク・アンド・リバー社が開示した改善状況報告書のような説明があると、外部の第三者が読んでも、『是正された状態』であることが納得できると思いました(もちろん、特記事項の記載については、内部統制監査において、その記載内容の適切性を確認しますので、これら有効とした内容を疑うものではありません)。

制度設計によって、経営者評価にある程度客観性を持たせることはできると思いますが、最後は、リスクが許容できる水準におさえられているかどうかが判断基準である以上、評価の主観性は変わらないものとなります。そのようなことをあらためて考えた事例でした。

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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