決算早期化は一過性のプロジェクトではない-継続的改善フェーズにおけるTips

経営管理の高度化では、業務のスピードアップ以外にコスト削減(生産性向上)と品質向上を合わせた3つについて、プロジェクト目標を定めることが多いのですが、基本的に、これら3つの要素はそれぞれ他の2つの要素へ影響を与えずに変更することはできません。

業務のスピードアップを第一の目的として実施する決算早期化プロジェクトの場合でいえば、その実現のために、例えば、会計システムへの仕訳計上のインタフェースを開発する場合がありますが、これはシステム投資コストを必要とします。また、例えば、概算計上のしくみを導入する場合がありますが、これは会計情報の質に影響を与えます。

もちろん反対のケースもあり、情報システムの新規開発や改修、業務品質の向上に関する取組みが、既存の業務スピードにプラス/マイナスの影響を与えることもあります。

今回は、後者のケースに関連した決算早期化プロジェクトのTipsをご紹介します。

決算早期化は、30日開示がゴールではない

東証が公表している3月決算会社の決算短信の開示状況に関する集計結果によれば、決算日後30日以内に決算短信を発表している会社は全体の約16%です。この数字だけを見れば、決算早期化のゴールは30日以内の開示であると言えますが、では、30日以内開示をした会社がそれで「決算早期化の取組みは完了」ということになるのでしょうか。

よく、業績改善(Performance Improvement)のプロジェクトの全体スケジュールのフェーズ切りでは、目標達成後のフェーズに「継続的な改善フェーズ」が用意されています。決算早期化のプロジェクトにおける継続的な改善とは、更なる決算早期化(20日以内開示など)や、別の経営管理要素の高度化(コスト削減、業務品質の向上など)を指します。

私も関与している現在進行形のプロジェクトでは、30日以内の決算短信発表をすでに達成している会社が、情報システムの再構築プロジェクトをきっかけに会計情報の質の向上に対応するため、特定プロセスの決算早期化サブプロジェクトを起こしました。情報システムの再構築プロジェクトの目的・課題は色々とあるのですが、それらの課題を解決しようとすると決算早期化の課題が浮き上がってきたのです。

経営管理の3つの要素が互いに影響を与えるという冒頭の記述に合わせると上記の「浮き上がってきた」という表現になるのですが、このクライアント場合は、決算早期化は一過性のプロジェクトではなく、継続的な改善フェーズとして計画された課題でした。

といいますのは、30日以内に決算短信を発表する決算早期化の取組みのときには、手を付けることができなかった課題をずっとストックしておき、制約の一つにもなっていた情報システムの見直しをするタイミングできっちりと課題として組みこんだといえるからです。

組みこまれた決算早期化の課題

事例の詳細を、ここに記載することはできませんが、次節でご紹介する一般化された決算早期化のTipsは多くの会社にも参考になると思われます。まずは、Tipsを理解するために最低限の事例の内容をまとめておきます。

決算早期化の課題

当該クライアントでは、一部の取引について月次決算は20日締めで運用し、本決算時に21日から末日分を別途経理部門が概算計上をするしくみを採用していました。30日開示に取り組んだ際には、事情があって手をつけなかった部分です。それを今回、情報システムの再構築にあたって、月次決算から末締めの運用へ切り替えることにしました。つまり、年次概算計上から、月次決算レベルでの確定計上へ切り替えることで、会計情報の質を向上させることを狙っています。

一般に決算早期化は、経理部門による連結決算や開示業務プロセスの早期化で達成できる部分も多いのですが、会計情報の質を向上させる取り組みは、逆に経理部門だけでは達成できません。そして、会計情報の質を向上させるということは、その結果、従来よりも業務プロセスの遂行に所要時間を要する可能性があり、それが決算早期化の課題となります。

決算早期化の目標

業務サイクルが21日から20日であったところを、1日から末日に切替えますが、月初の決算のスケジュール(事業部門の締め日)は同じです。したがって、従来と同じスピードで業務を回していたのでは、全体の決算スケジュールに間に合いません。調査の結果、今回の対象業務プロセスでは従来よりも5日間の日程短縮が必要であることがわかりました。事業部門・取引先を巻き込んで5日間の短縮というのは、行き当たりばったりの対処療法ではうまくいきません。

日程の再配分も選択肢とすること

一つ目のTipsが、継続的な改善としての決算早期化において、日程再配分も有効なソリューションとなるということです。

当該クライアントの例でいえば、対象業務プロセスでは従来よりも5日間の日程短縮が必要でした。課題の当事者は事業部門であり、経理部門は対象業務プロセスを担っていません。しかし、今回、経理の単体決算・連結決算・開示プロセスの日程から1日を提供するという形で協力をしました。その結果、現行の事業部門の締日を1日後ろにずらすことができ、要短縮日数が4日となったのです。

決算早期化では、最初に目標日程を配分し、それによって経理部門が中心となる早期化プロジェクトか、それとも事業部門・子会社を含めた早期化プロジェクトかが決まりますが、継続的な改善の中では、日程配分の見直しが(早期化の当事者を決める手段から)早期化の解決策の一つになります。

この点について、30日開示を達成した別の会社の方の話も合わせて考えると、業務のスピード感には慣れていくもので、最初はきつくても、いずれそれが当たり前になるというのが背景にあるようです。例えば、30日開示を最初に達成した当初は、時間外や土日もバッファーを含め使っていたのが、期を重ねるごとにスピード感に慣れ、余裕さえ出てくるということです。

情報システムの構築と並行する早期化では業務フローと外部仕様書を一緒にレビューする

今回のプロジェクトは情報システムの設計作業と同期をとって進める早期化でした。つまり、実際に利用している情報システムはまだ稼働していません。そのため、目標となるTo-BeのPERT図を作成するにあたり、できあがる情報システムの利用下で運用できることを検証する必要があります。

もし、プロジェクトが経理部門を当事者とした決算早期化であれば、利用システムは一般会計や連結システムですので、業種・企業によって大きく変わるものではありませんし、通常はシステム機能がボトルネックになることはありません。しかし、事業部門の業務プロセスの早期化ではシステム機能を無視することはできません。

また、IT部門の立場からは、ユーザーインタフェースを検討して外部仕様固めを行っているので、仕様が固まったあとで早期化の改善要件が外部仕様に影響すると困るという事情もあります。そのため、今回は早期化による改善要件から業務プロセスが大きく変更され、かつ、新システムの外部仕様にも影響を与えるプロセスについては、いわゆる業務フローを起こし、IT部門を交えて検証しています。

決算早期化ではPERT図を描いてクリティカル・パスを特定し、目標日程とのギャップをもとに阻害要因を探すアプローチが有効ですが、早期化改善要件で業務プロセスを大きく見直す場合や情報システムの機能を同時に検討する場合には、アクティビティレベルからもう一段詳細化した作業ステップレベルでの分析が必要となります。

そこで、業務フローと該当する業務プロセスで利用する情報システムの外部仕様書(機能設計書、画面設計書、帳票設計書など)を使って、事業部門・IT部門と一緒に早期化の改善要件を織り込んだ新しい業務フローをレビューします。

情報システムの内容がブラックボックス化するのは、業務フローや外部仕様書のようなユーザー部門とIT部門の橋渡しをするドキュメントを有効に活用していないことに起因していると考えられます。実際に今回のプロジェクトでもミーティングでは業務フローをベースに活発な意見交換が行われ、参加した人からは「非常に有意義な議論ができた」とか、途中で別のミーティングに参加するため退席した人からは「もっと話を聞きたかった」というようにコメントされていました。

まとめ

今回は、すでに決算短信の早期開示を達成している会社が、業務の生産性向上と会計データを含む業務品質の向上を目指すために情報システムの再構築を目指す際、決算短信の早期開示を維持するために取り組んでいる業務のスピードアップのプロジェクト事例を通じて、私が感じた決算早期化プロジェクトのTipsをご紹介しました。

  • 決算早期化は一過性のプロジェクトではなく、継続的な改善を繰り返し業績の向上に寄与する活動である
  • 継続的な改善フェーズにおいては、事業部門と経理部門の日程について、再配分することも選択肢として考慮する
  • 情報システムの構築と並行して決算早期化を進める場合、改善要件の大きさによってはPERT図の一部を業務フローに落とし込んで外部仕様書と一緒にレビューする

もちろん、今回もPERT図を描いてクリティカル・パスを特定し、阻害要因を探すアプローチを採用しています。決算早期化に限らず、日程短縮を目的とした業務のスピードアップを図るプロジェクトでは、汎用的に使えるテクニックです。そのノウハウがコンパクトにまとめられている書籍がこちら。

阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック