マイナンバー制度各論-収集・保管制限(その1)

今回のテーマは、前回に引き続き、番号法上の保護措置及び安全管理措置について各論として解説されている項目で「収集・保管制限」のうち、「収集の制限」と「保管の制限」をとりあげます。ガイドライン案(事業者編)と同時に公表されている、「特定個人情報保護ガイドライン検討会(事業者グループ)等において寄せられた質問に係る考え方」を引用をしながら解説します。

*2014年12月11日に確定したガイドラインが公表されています。「特定個人情報保護ガイドライン検討会(事業者グループ)等において寄せられた質問に係る考え方」の一部は、Q&Aとしてガイドラインとともに公表されています(12月22日)。

収集・保管制限

番号法では、社会保障、税及び災害対策に関する特定の事務等のいずれかに該当する場合を除いて、他人の個人番号を含む特定個人情報を収集又は保管してはならないとされています。

はじめに、「収集の制限」「保管の制限」について、これまで何回か紹介している安全管理措置の各管理段階(プロセス)に位置づけて確認してみましょう。「収集の制限」「保管の制限」は下図表において「取得」「保管」のプロセスに関連します。

collect&keep

以下では、「収集の制限」「保管の制限」について、ガイドラインの概要と質問および考え方をみていきます。

収集の制限

「収集」とは、集める意思を持って自己の占有に置くことを意味します。単に、特定個人情報の「提示」を受けただけでは、収集に当たりません。例えば、次のような場合に収集に該当します。

  • 人から個人番号を記載したメモを受け取る
  • 人から聞き取った個人番号をメモする
  • 電子計算機等を操作して個人番号を画面上に表示させ、その個人番号を書き取る
  • 電子計算機等を操作して個人番号を画面上に表示させ、その個人番号をプリントアウトする

実務上、個人番号カードなどの提示を受けて本人確認を行う際に、個人番号が記載された書類等を受け取った担当者は、できるだけ速やかにその書類を支払調書作成事務を行う担当者などへ受け渡し、自分の手元に個人番号を残さないようにします。この場合、書類等を受け取った担当者は「収集」はしていませんが、書類等の不備がないかどうか個人番号を含めて確認をしていますので「提示」を受けたと考えます(なお、書類等を受け取る担当者も、個人番号関係事務に従事する事業者の一部になります)。

また、個人番号関係事務に従事する従業者の範囲やその事務の実施方法については、事業者により異なりますが、収集の過程において、照合した証跡として、また、その後の登録・管理上の必要性から個人番号が記載された書類等のコピーを保有することが考えられます。このコピー行為自体は上記の考え方からすると「収集」に該当しますが、これに関連した質問を確認しておきます。

(質問)

事業者が特定個人情報の収集の際に、本人確認の照合のために収集した個人番号カード、通知カード又は身元確認書類についてコピーして、それを事業所内に保管することはできますか。また、本ガイドラインに定める安全管理措置のルールに基づいていれば問題ありませんか。

(考え方)

本人確認の措置を実施するに当たり、個人番号カード等の本人確認書類のコピーについては、法令上は保管義務はありませんが、保管することはできます。また、本人確認をした記録を残すために社内ルールとして保管する場合には、本ガイドラインに定める安全管理措置のルールに基づいて適正に行っていただく必要があります。

保管の制限

個人番号は、番号法で限定的に明記された事務を処理するために収集又は保管されるものですので、それらの事務を行う必要がある場合に限って、特定個人情報を保管し続けることができます。また、個人番号が記載された書類等については、例えば、扶養控除等申告書(所得税法施行規則により、当該申告書の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を経過する日まで保存する)のように、所管法令によって一定期間保存が義務付けられているものがあります。これらの書類等に記載された個人番号については、その期間保管することとなります。

この保管の制限でポイントになるのが、保管期間を越えて個人番号を記載した書類やデータは一定の場合を除いて保管することができないということです。以下の関連する質問では、個人番号を記載した書類を保管期間を超えて保管するための実務上の工夫、例外的に保管することができるケースについて知ることができます。

(質問)

個人番号が記載されている書類については、何らかの事情により、所管法令において定められている保存期間を超えて保存せざるを得ないものもあります。このような場合、当該書類を保持する必要性がある限り、当該書類の廃棄又は当該書類からの個人番号の削除をしなくてもよろしいですか。

(考え方)

個人番号はあくまで個人番号関係事務又は個人番号利用事務に必要な範囲で保管できるものであるので、保存期間満了直前に裁判が提訴され、その資料として個人番号の記載された書類やデータが裁判所から求められた場合などを除き、何らかの事情に備え、所管法令に定められた保存期間を超えて保存することはできません。

申請書等を何らかの事情で保管したい場合は、個人番号部分を復元できないようにマスキングするなどのほか、廃棄を容易にするため申請書等とは別に個人番号専用の書類を取得したり、申請書等を複写にして個人番号が記載される書類と記載されない書類を作成し、個人番号が転写されない書類を保管しておく等の方法が考えられます。

紙ベースでの書類管理として、「個人番号部分を復元できないようにマスキング」「申請書等とは別に個人番号専用の書類を取得」「申請書等を複写にして個人番号が転写されない書類を保管」といった工夫があげられています。

(質問)

税法上、個人番号が記載された書類を事業者において一定期間保存することを義務付けられている場合には、その期間においては、当該書類だけでなく、事業者は法定調書を作成するシステム内においても個人番号を保管することができますか。

また、税法上書類の保管が義務付けられていない書類に記載する個人番号や保管期間を過ぎた個人番号であっても、法定調書の作成や再作成の可能性があると事業者が考える場合には、個人番号の保管はできますか。

(考え方)

税法等で定められた個人番号を記載する書類等の保存期間を経過するまでの間は、法定調書の再作成等の個人番号関係事務を行うために必要があると認められるため、当該書類だけでなく、法定調書を作成するシステム内においても保管することができると考えられます。なお、法令の定める書類の保存期間を経過した場合には、一般的に法定調書の再作成を行う必要性は認められないと考えられますので、例えば保存期間満了直前に裁判が提訴され、その資料として個人番号の記載された書類やデータが裁判所から求められた場合などを除き、保管することはできないと解されます。

原則、保管期間を越えて個人番号を記載した書類やデータは保管することができないということです。

注:本記事は私個人の備忘録もかねています。今後、更新・追加されるガイドラインやFAQなどによって適宜内容は加筆・修正していきます。実務への適用にあたっては、関連する法令・ガイドラインなどの公表物をご自身でもチェックをお願いします。