日本公認会計士協会が主催するシンポジウムに出席しました。テーマに対する関心の高さもありますが、全国十数か所の拠点とライブ中継で実施する環境を整えたこともあり約1,300人の出席があったそうです。
今回、不正に対応した監査の基準の考え方について、企業会計審議会監査部会の審議の途中でこのようなイベントが開催されたのは異例のことです。
通常、企業会計審議会(ここでは監査部会)で審議された内容は意見書等として公表され、パブリックコメントが募集・訂正を経て最終答申となり、それを受けて基準の策定作業へ進みます。その基準策定の方向性を定める審議会の検討は選定された委員等によって進められ、個人が(所属する組織等を代表して)意見発信をします。この監査部会にも公認会計士業界の関係者ももちろん委員等として参加しています。
しかし、これまでの状況からすると一度企業会計審議会が公表されたものが大きく変更されることはありません。パブリックコメントで指摘された内容はもちろん反映しますが、誤りの訂正であったり表現の微修正がほとんどで原案の主旨を変えないように取り込まれます。
ですので、部会に参加して意見をきちんと伝え、部会として公表される案に主張を盛り込んでもらうことが大事になってくるわけですが、今回、監査部会の動向をみていて参加している個人の公認会計士ではなく、協会として組織として対応しなければならないという危機感が先日の協会意見書の提出であり、このシンポジウムの開催につながったと理解しています。
以下、講演とパネルディスカッションを聴いたことで印象に残った点を自分なりにメモしておきます(当日の検討項目を網羅するものではありません)。なお、公認会計士協会から提出されている意見内容は意見書を参照してください。
外堀は埋められたか
監査部会の動向について金融庁総務企画局企業開示課長から説明がありましたが、オリンパス等の不正会計事案への対応について以下を実施してきたことが触れられました。
- 企業統治のあり方は証券取引所が設置を求めている独立役員等について、その独立性や役割の明確化等が図れるよう開示府令等を改正
- 外部協力者について、課徴金制度を見直し(金商法の一部改正案が国会成立)
- 検査・モニタリングの強化等に関連して有価証券報告書のレビューを実施、また合併・買収にかかる開示の充実を図るため開示府令等を改正
それでで残ったのは「会計監査のあり方」です、とのことでした。
既存の枠組みを見直すことで十分対応可能ではないかとする考えに対して、印象的だったのは海外投資家から日本の金融市場に対して不信感が高まっているので、それに対して手を打ったことをプレゼンテーションする必要があるとの見解でした。
財務諸表監査の枠組みか否か
同じ企業開示課長の説明では、この不正に対応した監査の基準はあくまでも現行の財務諸表監査の枠組みにおける、不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査手続等を規定するものであることが説明されました。
ただ、基準のたてつけとしては現行の監査基準とは別だてとするとし、その理由を次のように述べています。
- 社会的に影響が大きい企業に限定すべき(適用範囲が違う)
- 不正による重要な虚偽記載に関連した基準類をまとめる(わかりやすさ)
これらに対して監査基準・実務指針から構成される基準類の体系にどのように位置づけられるのか検討が必要であるという意見が出されています。
監査上、強化すべきところ
シンポジウムに先立って協会の各委員会などから質問を募っていましたが、その中でも既存の会計監査の見直しで対応できるのではないか、もっと時間をかけて議論すべきことではないか、という意見があったそうです。既存の会計監査の見直しに関連した具体的な内容としてパネリストの方が出していたのは、次のようなものでした。
- オリンパスでも大王製紙の事案でも一度会計監査人が見つけている
- 現場の監査人と本部との連携・リスクに関する討論は充分だったか
- 本部内での協議は充分だったか
- 監査人交代時における監査人間の協議は充分だったか
このような問いかけに対して議論することで強化すべきところが出てくるというものでした。
不正の端緒を示す状況の例示はチェックリストか否か
部会資料の中に「不正による重要な虚偽表示の端緒を示す状況の例示(付録2)」があります。この例示はチェックリスト(監査手続の中で一つ一つ該当するかどうか検討していくもの)かどうかについて、企業開示課長からはチェックリストではなく(監査証拠の評価において不正リスクの判断をする際に)参照するものと説明がありました。
意図がそうだとしても、監査の現場ではチェックリストとして扱われるのではないでしょうか。監査をする会計士は基準類をまじめに読み込みます。一言一句その基準の意図を噛みしめ、必要に応じ行間を読んだり、裏を読んだり?という表現が合うときもあるぐらいです。
付録2の(2)留意すべき非経常取引等の中で、不適切な売上計上の可能性を示唆する状況として”企業の関与の理由が不明瞭な重要な取引”とか、オフバランス取引の可能性や企業債務について”経済的合理性が明らかでない~”という例示がありますが、かなり広範に不正の端緒をあげることが期待されています。
現場でどのような使い方をすべきなのか検討が必要であるとの意見がありました。
取引先監査人との連携はオプション
部会資料の中に「取引先の監査人との連携(案)」として2つのスキーム(確認、重要事項の問い合わせ)が提示されています。会計士協会会長やパネリストからは実現困難であるコメントが多くあがりました。
- 財務諸表監査の枠組みを超える
- 不正の疑いを調査するのは企業側の責任
- 連携する監査人の位置づけが不明
- 企業規模や取引件数によっては工数がかかりすぎる(費用対効果)
- 実績とした要した工数増の分を報酬としてクライアントに請求しにくい
- 守秘義務上の問題がクリアされるのかなど
これに対して、企業開示課長からは、これは必須のものではなく、オプションであることが説明されました。監査人間の連携に伴う法的責任については部会資料にも取りまとめられていますが、オプションとなった場合、本来他の監査人と連携して調査すべきだったのにしなかったことが注意義務違反として問われるか、新たな論点として出てきます。