「機能表現」と「階層構造」は、業務分析に必須のスキルである(業務プロセスの可視化)

『あなたは、ある業務改善を目的としたプロジェクトにアサインされて、対象業務の現状分析をしなければいけないことになりました。さて、あなたはプロジェクト現場にどのような「武器」を持っていきますか?』

先日、セミナーテーマの深堀をして「機能表現」の重要性を強調したエントリーでは、企業内でプロジェクトの当事者として業務プロセスの可視化をする際のポイントに焦点を当てて話をしました。

実はプロセスモデリングのような技術は、一方でコンサルタントのように外部から企業を分析する立場の人にとっては、プロジェクトをリードするうえで、身に付けておくべき技術、つまり現場へもっていくべき武器の一つになります。

プロジェクト現場での思い出

まだ私自身も駆け出しのころ、先輩コンサルタントがクライアントにヒアリングをしながらホワイトボードに業務プロセスを描いていたのですが、クライアントの方がみな出来上がった業務プロセスを見ながら一緒に議論している様子をみて「早く自分もできるようになりたいなあ」と思ったのを覚えています。

でも、ホワイトボードの前に立って、ミーティングのリード役を経験した方の多くは、最初にホワイトボードの前に立ってペンを持ったとき、何からどう描いて良いかわからず手が止まってしまったり、ホワイトボードの大きさに対して隅っこにぐちゃっと書いてしまったりした経験はありませんでしょうか(私はありました)。

種も仕掛けもあります

上記の先輩コンサルタントのように、業界経験や会社の業務についてはクライアントの方のほうが何年も経験があるのに、なぜミーティングセッションをリードすることができるのかと言うと、その種明かしの一つが『プロセスモデリング』という技術にあります。

その他業界・業務に関する知識や方法論、プロジェクトでの実践が必要であることは言うまでもありませんが、さきほどのようなシーンでは、『プロセスモデリング』が私のような分野のコンサルタントにはコアの要素技術として必須と考えています。

以下では、私が考えるプロセスモデリングの技術が業務分析に必須のスキルであると感じている点、使い方のコツを説明します。

企業の価値連鎖(バリューチェーン)をおさえることができる

プロセスモデリングを使いこなす(機能表現)

一つは適切にプロセスモデリングを使うことによって、当該企業のバリューチェーンを効率よく理解することができるということです。

前回エントリーで業務改善プロジェクト(問題解決型)では「○○を○○する」という「機能表現」で業務機能を記述すると説明しました。

例えば、メーカーであれば、材料をインプットにして「部品を製造する」という業務機能があり、その結果部品がアウトプットされます。次に、その部品をインプットにして「製品を製造する」という業務機能があり、その結果製品がアウトプットされます。さらに、製品をインプットにして「製品を販売する」という業務機能があり、その結果販売された製品がアウトプットされます。

これらの業務機能の連鎖が、材料を調達して、製品を製造し、販売するこの܁企業の業務プロセスを表すというものでした。

ここで、業務機能ごとに付加される価値に注目すると、一連の業務プロセスを構成するそれぞれの業務機能によって積み上げられた付加価値(製品・サービス)が最終的に顧客に届けられるという見方もできます。

つまり、プロセスモデリングによってその企業の価値連鎖(バリューチェーン)を表現することができるのです。

たしかに業界・企業の内容について、クライアントの方と同じレベルで詳細を知ることは不可能ですが、このプロセスモデリングを使いこなすことで、枝葉末節は取り除いて事業の幹となる部分を短時間でおさえることができます。

もちろん、できる限りその企業の事業について入手できる資料から、知識として入れた上で現状分析にのぞまなければいけませんが、その場で理解した内容をホワイトボードに絵に描いて確認ができる技術は身に付けておいて損はありません。

機能表現を意識してヒアリングするには

業務改善プロジェクト(問題解決型)において、業務プロセスを描く目的でヒアリングする際のコツは次の通りです。

    • インプット-プロセス-アウトプットを意識して業務プロセスが繋がるように不足している情報を入手する
    • 例えばインプット情報がなければ(ホワイトボードに描いた業務機能を指しながら)「この業務を実施するには何の情報が必要ですか」と質問する
    • インプットとアウトプットの間のプロセスがわからないときは「この情報を入手して何をしますか」と質問する
    • アウトプットがわからず次の業務機能と繋ぐことが出来なければ「この業務処理を実施することで何がアウトプットされますか」と質問する

業務プロセスは業務機能図形と矢線を繋いで表現しますが、情報処理のプログラムのように業務プロセス上を情報(物、金)が途切れず流れているかを意識します。

上記質問事項を意識して描くようになると、矢線一本を引くのにじっくりと考える必要がありますが、それが機能表現を意識して使っている証拠です。

業務プロセスは階層構造を意識して重要なものを段階的に詳細化する

プロセスモデリングを使いこなす(階層構造)

機能表現と並ぶもう一つのコツとして、業務プロセスの階層構造があります。こちらも先日のセミナーで触れたのですが、業務プロセスを可視化する際には、企業全体を構造化して捉え、経営を効率化する観点から、重要なプロセスを掘り下げる形で段階的に詳細化していきます。

例えば、対象業務全体を取り巻く外部環境との境界を明確にしたモデルをレベル0、対象業務を一段階詳細化し、内部環境に着目して業務プロセスを大きく掴む粗さで表現したモデルをレベル1、さらに対象業務の内容を詳細化する粗さをレベル2として描く、といったイメージです。最終的に個々の作業ステップを表すレベルまで落とし込むこと‚できますが、プロジェクトの目的や利用者の関心・ニーズによって必要な粗さにとどめます。

この階層構造は可視化のアプローチを表していますが、全体をおさえながら対象を絞って詳細に検討を進める(目的外の対象プロセスは詳細化しない)ので作業の効率性も良く、また最初はハイレベルの業務モデルから整理するので(外部の立場でも)すぐに理解でき、それによってミーティングセッションもリードしやすくなります。

もし最初から詳細化された業務プロセスで可視化したら

業務プロセスの可視化をする際に、最初から詳細化された作業ステップのレベルで可視化している例をみることがあります。

運用が固まっている業務について作業ステップを可視化することが目的である場合は別として、このようなアプローチをとると以下のような点で業務改善作業は進めにくいと思われます。

    • 全体を鳥瞰することができない
    • 業務モデル間の整合性が図りにくい
    • 例外処理に目がいってしまう

すなわち、短時間で業務を理解することができず、ミーティングセッションをリードするのは困難だからです。また、認識した問題を業務プロセスの流れ(線)の中で考えにくく、点の問題として対処療法的な改善案が導出されがちです。

「機能表現」と「階層構造」は、業務分析に必須のスキルである

『あなたは、ある業務改善を目的としたプロジェクトにアサインされて、対象業務の現状分析をしなければいけないことになりました。さて、あなたはプロジェクト現場にどのような「武器」を持っていきますか?』

この問いの一つの答えが、『プロセスモデリング』の技術であることと、その使い方のコツは「機能表現」と「階層構造」です。

業務改善の課題を設定するための業務プロセスの可視化のコツをまとめると次のようになります。

    • 業務プロセスをインプット→処理→アウトプットという機能表現された業務処理の連鎖として表現する
    • 企業全体を階層構造でとらえ、業務プロセスの見直しをするために必要な対象業務のみを詳細化をする