習得すべきは、ロジカルに決算早期化の阻害要因を探し出す技術

決算早期化は、スピードアップを第一に考えた業務改善の取組みである、と言えば当たり前だ、と思われるかもしれません。しかし、決算早期化の作業ではこの本質が忘れられてしまうことが少なくありません。また、決算早期化のために手に入れるべきものは、専門家が開発した処方箋や解決策としてのツールでしょうか。これも違います。コンサルタントが開発する方法論やツールは決して万能薬ではないのです。今回は決算早期化というテーマを題材に、処方箋や解決策としてのツールではなく、問題を掘り下げるための技術の重要性についてお伝えします。

決算早期化において「ボトルネック」とは

決算早期化作業でよく使用される用語に「ボトルネック」というものがありますが、皆さんはこの「ボトルネック」とは何か?と問われたら、どのように説明をされますか?

そうです。決算早期化におけるボトルネックとは、「決算を早期化するにあたって阻害している要因」のことを指します。単に「阻害要因」とも言います。そして、「ボトルネックを解消することが決算早期化ではポイントになる」、という表現をされるかもしれません。これも正しい理解です。

それでは、次の質問はどうでしょうか?

決算早期化の「阻害要因(ボトルネック)」はどうすれば見つけることができるか?

冒頭で、決算早期化の作業ではこの本質(スピードアップを第一に考えた業務改善ということ)が忘れられてしまうことが少なくない、としたのは、阻害要因(ボトルネック)を解消することが決算早期化のポイントであるということを理解していても、そもそも阻害要因(ボトルネック)をどうすれば見つけることができるかという点についてはあまり多くを語られることがないからです。

阻害要因探しを経験や勘に頼る、やみくもにヒアリングをして探す・・・どちらもできれば避けたい行動です。ところで、阻害要因を見つけるためには、まず阻害要因が存在する「クリティカル・パス」がどこにあるのか特定しなければなりません。

決算早期化ではまず「クリティカル・パス」を特定する

決算早期化の阻害要因という”点”を見つけるためには、まず阻害要因が存在する”パス(線-経路)”を特定する必要があります。スケジュールなど日程(時間)に焦点をあてた業務改善では「クリティカル・パス」がどこにあるかをおさえることが基本です。決算早期化も決算日程の短縮というスケジュールに焦点をあてますので、このクリティカル・パスの考え方が当てはまります。

ここで、クリティカル・パスと呼んでいるのは、「決算作業の全体工程の中で全く余裕がないパスのこと」を指しています。決算作業は複数の作業が1本の線で繋がっているのではなく、前後依存関係を持ちながら、ある時は分岐して並行作業となったり、それがまた結合したりを繰り返しているため、決算作業工程の始点から終点までの間を通る道筋は複数存在することになり、結果として作業日程に「余裕があるパス」と「全く余裕がないパス」が存在します。

決算早期化ではこのうち「全く余裕がないパス」すなわちクリティカル・パスに着目します。

決算早期化で「クリティカル・パス」を特定しなければいけない理由

クリティカル・パスを特定しなければいけない理由は、次のようなクリティカル・パスの性質を理解するとよくわかります。

  • クリティカル・パス上の何らかの作業が遅れれば、その分決算作業全体の日程がさらに遅れる
  • クリティカル・パス上の何らかの作業が短縮できれば、その分決算作業全体の日程が短縮される

経験や勘に頼って、またはやみくもにヒアリングをして、阻害要因とした作業項目を改善することで、結果的に全体日程が短縮されたということもあるかもしれません。しかし、それは阻害要因として改善した項目がたまたまクリティカル・パス上にあったということです。逆に取組みの結果、もし、阻害要因とした作業の日程が短縮されても、全体日程が短縮されていなければ、それはクリティカルパス上にない作業を改善していた可能性が高いです。

言いたいのは、決算早期化ではまずクリティカル・パスを特定し、そこから阻害要因を探し出すことから始めなければいけないということです。

習得すべきは、ロジカルに決算早期化の阻害要因を探し出す技術

もしかすると、クリティカル・パスの特定は何だか煩雑だから何か即効性のある処方箋や解決策としてのツールが欲しい、と思うかもしれません。しかし、そうした(専門家が提供しているものも含め)処方箋や解決策としてのツールも、クリティカル・パスに対して適用しなければ意味がありません。

また、決算早期化とは、経営管理においてPDCAを円滑に回すために、いかに実績を早く把握するかということです。企業が置かれている環境が変われば、とるべき戦略も変わり、それを実行するために整備する業務プロセスも変わります。したがって、決算早期化は一度取り組めば終わりというものではなく、企業環境の変化や戦略に呼応して、業務のスピードアップに関する課題があれば、繰り返し取り組むものといえます。

さらに、皆さん自身が置かれている環境に変化があり、その結果新しい環境で決算早期化に取組まなければいけないかもしれません。例えば、経理部門に所属していたのが、営業事務部門や工場原価管理部門、さらにはグループの子会社の経理部門へ、という具合にです。

こう考えると、手に入れるべきものは即効性のある処方箋や解決策としてのツールでなく、何が早期化の阻害要因になっているかを探し出すための技術になりますよね。阻害要因を探し出す技術を習得できれば、外部から提供される処方箋や解決策としてツールが今取り組もうとしている自社(自部門)の決算早期化に適用できるかどうか判断をすることも、またそれを適切にカスタマイズできることもできるはずです。

阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック