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先日、宝印刷様のIFRS対策セミナー(東京、名古屋、大阪)では、その周辺の経営課題の一つになる「決算早期化」について講演しました。

その準備作業の過程で、開示プロセスのシステム化をサポートする製品について、その特徴はどのようなところにあるのかを考える機会がありました。

開示プロセスの自動化は決算早期化に寄与するとともに、誤った情報開示のリスクを軽減する

開示プロセスのシステム化というと開示文書を編集するためのプログラム、いわゆるエディター機能を思い浮かべていました。最終のアウトプットとしてTDnetやEDINETの提出用データ、各種開示用の印刷用データを作成するためのシステムというイメージです。

しかし、宝印刷の方と開示プロセスについて意見交換をする中で、実際には開示システムが支援する開示プロセスの領域は広いことに気づきました。

今回お伝えしたいのは、開示プロセスをシステム化するメリットを一言でいえば、「自動化」によって作業期間を短縮する(迅速性)とともに、開示情報を誤るリスクも軽減する(正確性)ということです。

自動化による作業期間を短縮できるメリット(迅速性)

一つのメリットは、自動化による作業期間の短縮で開示プロセスを迅速化することができます。

具体的には決算数値と注記情報のデータを取込むことが可能です。入力作業が不要になるという面でスピードアップできるということは容易にイメージできると思いますが、手入力した情報と合わせて開示システム内で情報を共有できることがポイントです。

開示プロセスの特徴は同じ情報を複数のページ/ドキュメントにわたって再利用することにあります。

例えば、売上高という情報は、有価証券報告書の財務諸表や事業の状況における業績の説明で使用されるほか、決算短信の業績(サマリー情報)などでも使用されます。

このようなときにそれぞれのページ/ドキュメントでその都度データを入力するのは煩雑であり、間違えも発生しますので、開示システムでは一度入力した情報を複数のページ/ドキュメントで再利用することができるようにリンクの設定ができます。

日本基準であれば規則にそったひな形ベースの、IFRSであれば各社固有の開示様式が固まれば、定型的なプロセスですので自動化に馴染むのです。

決算早期化とシステム化

ところで、システム化によって決算早期化が達成できるという話を聞くことがありますが、私個人の経験でいえば、決算早期化を目的とした改善アクションでシステム改修や新規導入を全面的に採用した経験はほとんどありません(もちろん、システム化と早期化が馴染むプロセスもありますし、別案件としてシステム化プロジェクトが進められている状況であれば連携しなくていはいけません)。

システム化に頼らないのは、決算早期化がビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)のような業務の再構築にみられる改革とはレベル感が違うのと、そもそも決算早期化の阻害要因(ボトルネック)が、システムを利用する業務機能以外の箇所に存在することの方が多いからです。

例えば、開示プロセスの一般的な早期化阻害要因としてあげられる次の項目をみるとシステムとは全く関係がないことがわかります。

  • 財務諸表などの数値情報、数値情報以外の開示情報あるいは開示情報作成のための基礎情報が、各部門からタイムリーに収集できない。
  • 収集した基礎情報の精度に問題があり、チェックに時間がかかる、あるいは、基礎情報の修正・再作成のために作成部門に差し戻すことが多い。
  • 決算スケジュールの調整が不十分で、想定していた日程で内部の承認あるいは監査人のチェックが受けられない。

これらはいずれもシステムとは関係がありません。

開示プロセスの自動化が決算早期化と馴染む理由

それでは前述した、開示プロセスのシステム化、すなわち「自動化」によって作業期間を短縮することができるといったのは、どのような早期化の阻害要因に対応しているのでしょうか。

例えば、次の開示プロセスの一般的な早期化阻害要因をあげることができます。

  • 開示用データの加工、開示書類の作成の仕組みが構築されていないため、入手した情報を再入力するなど手作業が多い。

これは、開示プロセスに限った話ではなく、業務機能(プロセス)が”インプットを価値あるアウトプットへ変換する仕組み”になっていないということを意味します。

あるアクティビティのアウトプットが次の工程のインプットとしてスムーズに利用することができない状態にあるとき、プロセスには改善機会が存在します。

したがって、開示プロセスにおいて出来上がる開示基礎資料が、開示用データの加工や開示書類の作成にスムーズに繋がるよう決算数値の作成段階からそのアウトプットを意識する必要があります。

それに加えて、もし、そのアウトプットを開示システムのインプットとしてそのまま利用することができれば、決算数値の作成から開示書類の提出用データの作成までがシームレスに繋がるようになります。

これが開示プロセスの自動化が決算早期化と馴染む理由であり、システム化するメリットになります。

自動化により誤った情報開示のリスクを軽減するメリット(正確性)

開示プロセスをシステム化するもう一つのメリットが、自動化により誤った情報開示のリスクを軽減することができるというものです。

これは次の開示プロセスの一般的な早期化阻害要因と関係します。

  • 開示書類間の数値情報の不整合が発生しやすく、チェックおよび修正作業に時間がかかってしまう。

これは開示プロセスが、財務諸表と注記情報の間、決算短信と会社法計算書類の間、有価証券報告書と株主総会招集通知の間というように、同じ情報を複数のページ/ドキュメントにわたって再利用する特徴を持つことと関連します。

これら複数のページ/ドキュメントの整合性を確保するために、チェック作業をコントロールとして組み込むことになります。このチェック作業がシステム化されていなければ、不整合がないことを人が目で見て判断することになります。

しかし、開示スケジュールの限られた時間内で実施することになりますので、人が行うコントロールである以上、不整合を看過してしまうリスクはどこまでも残ります。

開示プロセスをシステム化する必要性は企業によって異なりますが、この整合性チェックをシステムによって自動化することで迅速に漏れなく行えるメリットをどの程度重要視するかが判断基準になると思います。

ちなみに、システムによる整合性チェックは、項目レベルで数えればかなりの数になり、宝印刷の方の話によれば通常数百か所、多い企業では千を超える整合性チェックをシステム内で設定するそうです。

以上のように、開示プロセスをシステム化するメリットには、「自動化」によって作業期間を短縮する(迅速性)とともに、開示情報を誤るリスクも軽減する(正確性)という2つがあります。

開示プロセスの迅速化、また、整合性チェックの負荷軽減や正確性確保を目的として開示システムの導入を検討されている方は、この2つを評価基準を検討に加えると良いと思います。

阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック