決算早期化に関して仰星ニュースレターへの寄稿も最終回となりました。
今回は早期化の阻害要因(=ボトルネック)を特定して、課題へ落とし込むところの概要を説明しています。
クリティカル・パスを導出
クリティカル・パスを導出するためには、作成したPERT図で可視化した決算作業工程のアクティビティ(矢印で表現した決算作業を細分化したパーツ)ごとに現在どのぐらいのスピードで実施できているのか、直近の決算スケジュールの実績を参照して、その完了日と作業期間を記入していきます。単体決算の全体工程における売上を例にあげると次のようになります。
- ①販売システムの締め[第7営業日→7(作業期間、以下同じ)]
- ②会計システムへの売上仕訳の計上[第8営業日→1]
- ③貸倒引当金ほか決算調整仕訳の計上[第10営業日→2]
- ④B/S、P/Lの確定[第12営業日→2]
- ⑤連結パッケージの作成[第15営業日→3]
ポイントは矢印(=アクティビティ)が「作業期間(時間)」を持つということです。すなわち、あるアクティビティの作業期間は、その完了日から先行するアクティビティの完了日を差し引くことによって求めることができます。
例えば、⑤連結パッケージ作成の完了日から④B/S、P/Lの確定日を差し引くと連結パッケージの作成期間として「3日」が算出されます(ここでは、簡便化していますが、実際は先行するアクティビティが複数ある場合は、そのすべてが完了していないと後続するアクティビティは開始できませんので、作業期間の計算には最も遅く完了する先行アクティビティの完了日を用います)。
売上以外のアクティビティ(売上原価、固定資産・・・)も同様に完了日の記入と作業期間の算出をします。すべて終わったらPERT図上で最終のアクティビティから一番作業期間を要しているアクティビティを遡って線で繋ぎます。するとそのパスが決算作業においてまったく余裕がない、すなわち早期化上のクリティカル・パスとなります(なお、目標とのギャップの関係でクリティカル・パスは1本とは限りません)。
クリティカス・パスを導出した後にすること
クリティカル・パスを導出したら、目標となる決算作業日程を決めて、現状とのギャップを把握します。決算発表日や連結パッケージ提出といった指標の値が決まっている最終アクティビティの目標完了日を決め、あとはどの作業工程にどのぐらいの時間を配分するかを検討しながらモデルとなる目標スケジュールを決定します。仮に連結パッケージの目標提出日を第9営業日とし、上記例と同じ売上計上から連結パッケージ作成の繋がりにクリティカル・パスが存在したと仮定して下記に例示をします。
- ①販売システムの締め[第4営業日午前中→3.5(同上)]
- ②会計システムへの売上仕訳の計上[第4営業日→0.5]
- ③貸倒引当金ほか決算調整仕訳の計上[第6営業日→2]
- ④B/S、P/Lの確定[第7営業日→1]
- ⑤連結パッケージの作成[第9営業日→2]
これにより、目標となるモデル日程と現状とのクリティカル・パスに関する日程上のギャップ(差異日数)を把握することができます。最終のアクティビティが連結パッケージの作成でこれを第9営業日完了(現状から△6日の短縮)にしますので、上記の例では①販売システムの締めについて現状7日間要しているがそれを3.5日で実施(△3.5日の短縮)する必要があります。同じように②が△0.5日、④が△1日、⑤が△1日で合計△6日となります。
モデルスケジュールによる要短縮日数は目安ですが、全体として6日短縮するためにどこのアクティビティで改善を実施するかプロジェクトで検討をします。目標達成のためには、この差異日数をなくすべく、作業開始日を早めるか、作業日数を短縮するための対策を講じるしかありません。「作業着手を早めるためにはどうすれば良いか」「なぜこれだけの時間がかかっているのか」など原因を分析し、アクティビティごとの改善機会として整理していきます。
早期化上の課題の設定にあたって
クリティカル・パスの意味するところは、クリティカル・パス上のアクティビティが遅れると決算作業全体が遅れるということと、クリティカル・パス上のアクティビティの改善に注力することが、決算早期化プロジェクトを効率的に進めるためのコツである、ということです。
ともすると、決算早期化は経理部門の問題と思われる傾向があります。しかし現状を分析してみると経理以外の事業部門やグループ他社の課題もありますし、改善策を実行する際の調整・連携先となれば取引先、外部監査人なども含まれます。これらの課題を経理部門にとって所与とせずに、プロジェクトでは全社的な協力を得られるようにしておくことも大事です。
阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック