最近は持ち運びが便利な電子書籍で本を読む機会が増えていますが、じっくりと読みたい専門書や実務書といった類は、電子化されていないものも多いという理由がありますが、紙の本の方が(私は)読みやすいです。さて、冬休みの個人的な課題図書を購入するために、また情報収集を兼ねて書店へ足を運んで、まず手に取ったのがこちらの本です。

税効果会計における 繰延税金資産の回収可能性の実務 (竹村純也[著])

日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」を真正面から考察した書籍です。竹村純也氏がこのニッチなテーマでどのように1冊の本を書き上げたのか、どんなメッセージを込めたのか、(実務担当者とは少し違う目線ですが)興味深く読んでしまいました。

ライティングの技術を勉強するという個人的な目的はさておき、これから読む方のために私が印象に残った点を以下にご紹介します。

第1章 なぜ繰延税金資産の回収可能性を判断しなければならないか

繰延税金資産に資産性が認められる理由について、まず今までの税効果会計の解説を忘れなさいと説いて、税効果会計の変遷を振り返りつつ、繰延税金資産に資産性が認められる理由までがスーっと流れるように解説されています。その上で、日本の繰延税金資産の回収可能性の判断は、監査上の取扱いを規定した66号報告が会計実務において参照されている現実を関連する基準や指針の公表・位置づけと合わせて解説しています。私もそうでしたが、これまで断片的な(また一部は誤った)理解だったものが、体系的に整理されておさまった感じを受ける人は少なくないと思います。

第2章 繰延税金資産の回収可能性を判断するための2つの観点

ここでは「スケジューリング」と「ビフォア課税所得」という繰延税金資産の回収可能性を判断するために重要な2つの観点について、それぞれ誤解されやすい留意点も例示を交えながら解説しています。なお、「ビフォア課税所得」は”繰延税金資産の回収可能性を判断するために用いる課税所得”のことで筆者が定義した用語です。

上記第2章まではすべての読者が共通で読んだ方がいいところです。

ところで、第5章で紹介されている「トゥールミン・モデル」では、論理的な主張を展開するためには「事実」「根拠」「主張」という3つの要素が揃っていなければいけないとされています。実は第1章と第2章では、筆者自身がこのトゥールミン・モデルを実践しています。第1章と第2章から筆者の「主張」と「根拠」を抜き出してみるのも論理展開の型を身につけるレッスンになります。

第3章 66号報告に示された例示区分の読み解き方

第4章 例示区分の判定方法とその変更が必要となる要件

この2つの章は、頭から通しで読んでも良いのですが、実務担当者にとって必要なところ、関心のあるところから読んでその他の例示区分へと読み進めるのが良いと思います。

第5章 66号報告がない状況に備える

この章は筆者からの提言です。繰延税金資産の回収可能性を画一的にとらえるのではなく、論理展開の型という武器を身につけることで主張の妥当性を高めるべきであるというものです。トゥールミン・モデルの紹介と66号例示区分へのあてはめ、別ロジックによる異なる主張となる可能性の例示を解説しています。

この本にある論理展開の型を身につけて実践をすれば、おそらく監査人対応にも効果があると思います。ぜひ、冬休みの課題図書に含めてみてはいかがでしょうか。

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