夕方の散歩で吹く風に、涼しさを感じる季節になりました。もう秋がそこまで来ていますね。
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リモートワークの事例記事を読むとき、企業によって評価が分かれていることに気づきます。ただ、それは企業自身の自己評価だったり、書き手の評価であったりします。必ずしも自分の組織に合った内容とも限りません。また、事実のみを記載した記事、良し悪しの判断は読み手任せという記事もあります。
そのような時、自分なりにリモートワークを読み解く視点を持っておくと便利です。ボクの場合は、リモートワークの設計と運用に携わる機会を持つことから、次の5つの視点で事例を観ています。
- 時間
- 距離
- 職種
- 業務内容
- 空間
1つ目の「時間」は、いつリモートワークをするのかという視点です。企業によって部署・個人・職種ごとに曜日を決めたり、原則リモートワークとする、などルール化しています。達成目標として「リモートワーク率」を指標とする企業もありますね。ちなみに監査会計士の場合は、ジョブに依存しますので、緊急時でなければ、「可能な限り」とか「被監査会社の状況に合わせて」とか「チームで判断して」といった運用が現実的なようです。
2つ目の「距離」は、会社とリモートワーク拠点の離れ具合です。自宅など何かあれば日中に会社へ駆けつける事ができる距離にいなければいけないとか、国内ならどこでも良いとか。新幹線や飛行機もありますので、許容できる時間によっては、極端な話ですが海外であっても可能かもしれません。かなり自由に設計することができます。監査会計士の場合は、ジョブに依存するので自由度は高いとは言えませんが、それでも、地元に帰って個人事務所を経営する非常勤職員が、東京に出張せずにジョブに参画することもできます。また、地方にいる親御さんの世話や出産で帰省した奥さんのいる場所に一定期間移動してリモートで働くことも可能です。
3つ目の「職種」は、リモートワークの制約でもあります。特定の設備を使わないと仕事ができない、対面でないと販売・サービスできない、顧客からの要請といったものです。同じ会社でも一律に運用するのではなく、職種ごとにリモートワークの要領や目標設定をしているところが見受けられます。
4つ目の「業務内容」は、何の仕事をリモートで行うかというものです。働き方の観点では、反対に、職場に行くこと、集まって仕事することの意義を問い直すものです。監査会計士であれば、紙の証拠資料の入手、実地棚卸の立会・現場業務の観察があります。また、経営者とのコミュニケーションや所内メンバーとのミーティングなどもあります。これらの仕事は、ITを駆使すればリモートでもできる環境にあります。現状は、リアルで会って仕事をする意味について試行錯誤しているかと思います。
最後5つ目が「空間」です。一般事業会社の方であれば会社が、監査会計士であれば事務所と往査先の二つがメインの働く空間でした。今回の緊急事態宣言下では、これに自宅が加わりました。自宅を仕事の場とするのは、個人の住環境や家族構成の関係で、人によって働きやすさは異なる部分です。
以上のような、リモートワークを読み解く5つの視点で、事例を評価すると、比較がしやすいと思います。さらに、自組織に取り入れることができそうなヒントを絞りやすくなります。
ところで、最後の「空間」をどのように設計するかの論点があります。さらに物理的な空間と、デジタル(クラウド)な空間に分かれます。この2つをどのようなバランスでとるか、また、どこまでの機能を持たせるかは、リモートワークのあり方に大きな影響を与えると考えています。
ちょうど先日、東京都庁のデジタル遷都に関する記事を読んで、監査事務所も同じだなと思ったところです。
まず監査事務所にとっての、「物理的な空間」というのは、事務所と往査先、自宅に加えて、リモートワークという観点で、例えば、自分にとって居心地の良いカフェやラウンジがあります。また、最近は異業種からも参入があるコワーキングスペース、サテライトオフィスなども可能性としてあげられます。今に始まったワークスタイルではありませんが、これら空間を活かしてワーケーションやノマドワークといった概念も脚光を浴びています。
監査事務所に所属する会計士は、独立している会計士に比べると自由度はないかもしれませんが、「サテライトオフィス」や「ワーケーション」などは、優秀な人材を確保・定着させるために報酬以外の特典として導入するのも面白いと思います。
緊急事態宣言が解除された直後、リモートワークをテーマにしたセミナーをオンラインで開催しました。ボクがモデレータをつとめたパネルディスカッションでは、ワーケーションを推進する自治体として山口県と萩市の職員の方を招きました。また、実際に萩市にサテライトオフィスを進出している企業経営者の方もパネラーに迎えました。そこでは、成功の秘訣や企業にとってのメリットについて、実体験に基づく話をしてもらいました。監査事務所には難しいかなと思っていた自分がパネルが終わる頃には、面白い!楽しそう!と感じる方が強く、心理的なハードルが下がったのを覚えています。
もう一つの「デジタルな空間」は、クラウド上にあたかも監査事務所の執務スペースや会議室があるような、もしくは、クラウド上に往査先の監査部屋があるイメージです。
現段階でも、一般のインターネット上に、クローズドな空間をつくって、そこに仮想デスクトップや仮想サーバを集めて、あたかもクラウド上の事務所で皆が一緒に仕事をしている姿は実現可能です。また、オンラインのWeb会議を使うことで、チームが集まって(必要であれば、被監査会社の担当者にも入ってもらって)監査部屋を再現することも可能です。
このように、バーチャルな空間でも、リアルに集まることとほぼ同じぐらいのコミュニケーションの質と量を確保することができる時代になりました。
その上で、今、ボクが個人的に課題と思っているのが、この「物理的な空間」と「デジタルな空間」のバランスの持ち方と、それに付随する利便性とセキュリティの両立です。
デジタルな空間ですべての仕事が完結するというのは、一見すると先進的で、優れているように思えますが、本当にそれでいいのだろうかと思っています。バーチャルな空間で監査部屋を再現して、リアルの世界と同じコミュニケーションの質と量を確保する必要が果たしてあるのだろうかと。
人が中心にいて、リアルで働く物理的な空間があり、その先にデジタルな空間がある。業務内容、利用するシステムの機能によっては物理的な空間に集まったり、デジタルな空間でコミュニケーションをとったりという具合に手段を使い分けるのだと思っています。
それともう一つが利便性だけを追求しすぎないこと、リモートワークの設計は常に裏にセキュリティの問題がついてまわることを意識しないといけません。一般の事例でコワーキングスペースを在宅勤務時のワークスペースとして認めている会社があります。しかし、監査会計士の場合はセキュリティの問題があるためどこでもOKという具合にはいきません。また、Web会議をとっても、そのコンテンツは一般のインターネットサービスにアップロードして良いのか、共有した画面の向こうにいる参加者はその情報を閲覧して良い人なのか、というセキュリティの問題があります。
こうした動きを禁止する(例えば、自宅以外不可)、また機能を制限する(例えば、組織外の人は参加できない、コンテンツの外部共有を許可しない)などの統制は、リモートワークの利便性とトレードオフの関係にあります。
立場上、ユーザからくる問い合わせ、例えば、「このサービスは利用してよいか」とか「他の法人はこうしているがうちではできないのか」など、リクエストを受けます。この時に利便性だけでは判断できないのが、難しいところです。世間一般の最新情報を収集するとともに、同業で同じ立場・同じ悩みを持つ人と意見交換して、判断の軸を形成していきたいと思っています。