先日、執筆をした書籍『阻害要因探しから始める 決算早期化のテクニック』が発売となりました。案内をした知り合いの方からも「PERT図は色々な場面で登場しますね、参考にさせて頂きます。」「かなり具体的に落とし込みをされておりますしコラムも面白いもので、有効的な本と感じます。」などの言葉を寄せていただきました。

目次

  1. 決算早期化の本質
  2. 決算早期化のゴールと目標
  3. クリティカル・パスの重要性とPERT図
  4. クリティカル・パスを特定するための3つのステップ
  5. PERT図を作成するための情報収集
  6. 目標決算スケジュールの作成と差異日数の把握
  7. 阻害要因の発見と改善の方向性
  8. 早期化の実行
  9. 決算プロセス別の阻害要因と改善の方向性

目次からもわかりますように、本書では決算早期化の「答え」ではなく、「答えを探し出すための技術」の解説に重点をおいています(3~7章)。決算早期化も業務のスピードアップを図る業務改善プロジェクトの一つで、現状の姿とあるべき姿のギャップを問題と捉えるオーソドックスなアプローチでもあります。

今回は、決算早期化の書籍発売の裏にあるストーリーを紹介したいと思います。

決算早期化でPERT図を利用するようになったきっかけ

私が決算早期化のプロジェクトでPERT図を利用するようになったきっかけは、決算早期化の一番最初の案件にアサインされたときに、上のマネージャーから「今回の案件ではこれを使ってみよう」ということで付箋を貼った1冊の本を渡されました。本のタイトルは忘れてしまったのですが、たしか内容は”生産計画”とか”科学的管理法”とかいう用語があったのを記憶しています。付箋が貼られたページを見ると、そこに「PERT図」の解説がありました。しかし、解説は3ページしかなく、しかも、(当たり前ですが)決算早期化はおろか会計とは何の関係もないものでした。

あとで聞いた話では、マネージャーもその本を薦めてきた上司のパートナーも、PERT図が決算早期化で使えるはずだ、ということで実際に適用したことはなかったそうです。そのプロジェクトにおいてPERT図の作成を任されたことにより、じっくりと向き合えたのはラッキーでした。そのようなわけで、決算早期化のプロジェクトでPERT図を利用するようになったきっかけは、先輩コンサルタントたちの勘によるものでした。

決算早期化でPERT図が利用できると確信したクライアントの言葉

PERT図の作成や活用については、色々な書籍で紹介されているものの、実務への落とし込みとなるとレベル差があるように感じてました。プロジェクト現場ではどちらかと言えばわかり易さの方が求められます。ですので、自分なりに表記を簡易にしたり、理解しやすいステップを考えるようにしました。例えば、本書ではPERT図そのものの一般的な解説はしていませんし、また、表記方法も厳密なところで一般的なそれに則っていません。さらに、最早(最遅)結合点時刻の算出からクリティカル・パスを導入する複雑な手順では、そのような用語を使わないで解説する工夫をしました。

ところで、プロジェクト現場で改良を加えてPERT図も「進化」してきたのですが、決算早期化でPERT図が利用できると確信したきっかけは、クライアントの方から「このPERT図があるとクリティカル・パスがはっきりして、どこをどうすれば良いか一緒に議論できますね」という言葉でした。この“一緒に議論できる”というのがポイントです。この方はグループで決算早期化を推進する親会社の立場で、子会社の決算早期化の打合せに参加したのですが、当初は子会社の業務を知っているわけでもなくどうやって早期化をしていくのか不安だったそうです。

しかし、それがPERT図の読み方を理解することで、自分でも質問をしたり、改善代替案を提示してみたりするなど、打合せでも積極的に発言できることに気付いたそうです。このケースは親会社の経理担当者と子会社の経理担当者との間の話しですが、経理担当者と営業担当者の間などでも同じです。業務プロセスの可視化は、自分の担当する仕事以外の業務についても理解し、コミュニケーションを可能にします。PERT図がプロジェクトにおいてコミュニケーションを円滑していることがよくわかった言葉でした。

日程を短縮するという決算早期化の本質が変わらないので、時代が変わってもPERT図が利用できた

もう一つ決算早期化でPERT図が利用できると確信しているのは、それが業務プロセスと真正面から向き合っているからです。1990年代の連単同時発表、2000年頃のグループ経営管理の高度化、最近のIFRSなどにもとづく決算日の統一要請など、決算早期化を推し進める背景が変わっても、日程を短縮してそれらを実現するためには必ず業務プロセスの整備が必要になります。

私が今回の書籍でPERT図を利用したクリティカル・パスを特定する手法を前面に出したのは、日程を短縮するという決算早期化の本質が変わらない限り、時代が変わってもPERT図の利用は有効なので広く知ってもらう意味があると考えたからです。

コンサルティング志向の公認会計士の教科書として

本書は、決算早期化に関心のある企業担当者の方はもとより、コンサルティング志向をもつ公認会計士の方にも役に立つと考えています。これまで本書に書いたテクニックは、実際のプロジェクトで一緒になったクライアント担当者と内部メンバーにしか共有できませんでした。といいますのは、PERT図のような業務を可視化する技術は、2時間程度研修会では紹介はできても実際に描いてみないとわからないのと、OJTで身につける方が断然効率的だったからです。

今回はそのPERT図を利用したクリティカル・パスの特定方法を汎用化した形で丁寧に解説しています。ですので、これまで決算早期化のコンサルティングを経験したことがある方は自分の引き出しを増やすつもりで、またこれから決算早期化のコンサルティングをしてみたいと思う方は現場に行く前にプロジェクトの疑似体験をするつもりで、本書を教科書のように使っていただければと思います。