2008年4月から制度が始まってもうすぐ丸6年になります。内部統制は一度構築をしたら終わりではなく、それを維持管理していくことが必要です。維持管理するというのは、同じ状態を保つ(何もしない)ということではなく、外部・内部の環境変化に応じてリスクを見直し、継続的に改善をしていくことを意味します。今回は、2013年1月から12月において、開示すべき重要な不備などの事例を総括してみました。内部統制報告制度の現在の運用状況の実態を把握したり、自社の運用を見直したりするのに参考になりますので、紹介します。
以下の分析では公表されている資料を利用していますが、一部の分類作業においては、筆者の推測および主観的な判断が含まれています。また、情報の収集ではEDINETのキーワード検索を使用していますが、検索の網羅性については保証されませんので、予めご了承ください。
2013年において開示すべき重要な不備などを公表した企業は36社
2013年1月から12月の間で公表された内部統制報告書または訂正内部統制報告書において、経営者の評価結果を「開示すべき重要な不備(重要な欠陥)があり有効ではない」または「評価結果を表明できない」とした企業は36社でした。
なお、過年度の誤謬または不正による虚偽表示が顕在化し、それが内部統制の開示すべき重要な不備に起因しているとして、訂正内部報告書を提出することがあります。その場合において、その後決算日までに不備の是正が完了せずに、通期の内部統制報告書においても、開示すべき重要な不備を開示することがあります。このように同一の会社が年間に2回開示すべき重要な不備という評価結果を開示することがあり、2013年は提出日ベースで延べ46社にのぼりました。
(「重要な欠陥」は、2011年4月1日以後に開始する事業年度から「開示すべき重要な不備」となりましたが、定義は同じで言い換えであることから、本稿では区別はしていません。)
開示すべき重要な不備の半数は訂正内部統制報告書による
また、提出日ベースで開示すべき重要な不備などがあるとした46社の半数23社が訂正内部統制報告書による開示でした。下図表では、決算月別・提出月別に通期と訂正内部統制報告書を開示した会社数を表しています。よく3月決算の通期の内部統制報告書(6月提出)を対象に、開示すべき重要な不備があるとした会社の調査データでは、その会社数が減少しているという記述メッセージがあります。しかし、下図表を見る限り、減少イコール内部統制報告制度の目的は達成されたとまで言うことはできないようです。
(同一の会社が訂正報告書と通期の報告書の2つを別の時期に提出している場合もそれぞれでカウントするため、合計は36社を超えています。また、3月決算会社の6月提出通期分には評価結果を表明できないとした2社を含みます)
訂正内部統制報告書のおける開示すべき重要な不備は複数年度にわたる不備であることが多い
訂正内部統制報告書は、通期の内部統制報告書では有効との評価結果を記載していたにもかかわらず、後になって過去の誤謬または不正による虚偽表示が顕在化した場合に、その誤謬又は不正が内部統制の不備(開示すべき重要な不備)に起因していると判断された場合に提出されます。この訂正内部統制報告書は複数年度の訂正になることが多く、長い間不備は存在していたが、たまたま虚偽表示が起きなかった(発見できなかった)ということです。下図表は、訂正内部統制報告書を提出した23社における訂正期間を表しています。過去4~5年度分の訂正内部統制報告書を提出した会社が10社にのぼることがわかります。
開示すべき重要な不備の内訳は統制環境と決算財務報告プロセスの不備が多い
次に、開示すべき重要な不備を開示した企業の不備の内容を見てみます。下図表は不備の内容を内部統制の区分別に集計したものです。これを見ると全社レベルの内部統制のうち統制環境と決算財務報告プロセスの不備が約5割を占めることがわかります。
(開示すべき重要な不備などが複数の基本的要素に関連して発生している場合はそれぞれでカウントしています。)
開示すべき重要な不備の半数は不正である
また、開示すべき重要な不備が、誤謬によるものか、不正によるものかを集計すると36社の半数の18社ずつとなっていました。さらに不正は「不正な財務報告」と「資産の流用」に分かれますが、すべてが「不正な財務報告」によるものでした。補足ですが、この3月期から運用が始まる不正リスク対応基準では、主として「不正な財務報告」に焦点をあてています。それはこのように「不正な財務報告」が重要な虚偽記載につながることが多いからです。
区分 | 会社数 |
---|---|
誤謬 | 18 |
不正 | 18 |
区分 | 会社数 |
---|---|
不正な財務報告 | 18 |
資産の流用 | 0 |
(第三者委員会の報告において(不正の可能性は高いものの)不正が発生したことを確認できていない分は不正に含めていません。資産の流用についても同じです。)
なお、下表ではこれら不正な財務報告の状況について、行為者はだれなのか(関与の度合いは色々ありますが、主体的に行為した者を主観で)分類してみました。不正な財務報告においては、内部統制が無効化されることも少なくありません。下表からは強い権限をもつ者による行為であることが読み取れます。
関与者区分 | 会社数 |
---|---|
経営者不正 | 5 |
上位管理者不正 | 10 |
従業員不正 | 3 |
さらに、同様に下表では不正が単独によるものか、共謀者がいるのかについて分類をしています。なお、共謀者には外部内部とも存在する場合がありますので、合計会社数は18社を超えます。不正な財務報告では単独の実行は少なく、内部共謀という組織的な関与が多いことがわかります。
共謀者区分 | 会社数 |
---|---|
単独 | 2 |
内部共謀 | 13 |
外部共謀 | 7 |
その他の開示すべき重要な不備の分析結果
不備が発生した事業拠点
その他の分析結果を見ていきます。まず、不備が発生した事業拠点は、本体(親会社)が最も多かったのですが、3割近くは子会社において発生した不備でした。
(期末近くに子会社を取得し、評価を実施できなかったために評価結果を表明できないとした1社を除いています)
市場別会社数
次に市場別に開示すべき重要な不備が発生した会社数を見てみます。JASDAQで多かったことがわかります。
監査事務所別会社数
最後に、担当の監査事務所別に開示すべき重要な不備が発生した会社数を見てみます。このデータは監査事務所の品質とは関係はありませんが、このデータを収集する中で気づくのが、開示すべき重要な不備を開示している会社の中には監査人の異動(合併によるものも含む)を伴っていることも少なくないようです。今回の調査において確認できた範囲では、36社のうち9社で過去を含む監査人の異動がありました。
開示すべき重要な不備の資料(PDF)ダウンロードはこちらから
今回の調査・分析のもとになっている、開示すべき重要な不備などを開示した企業の(訂正)内部統制報告書の情報を整理した資料を下記からダウンロードすることができます。なお、ダウンロード資料の利用にあたっては、すべて自己責任でお願いします。すなわち、ダウンロードした方等が、本資料を利用して提供又は伝送する情報については、ダウンロードした方の責任で提供されるものであり、筆者はその内容等についていかなる保証も行わず、また、それに起因する損害についてもいかなる責任も負わないものとします。ダウンロードした方は本利用条件に同意した者とみなすことについてご了承のうえ、ご利用ください。