ERP導入で「成功した」という評価と実態(2013ERPレポートより)

success or failure

米国デンバーのパノラマコンサルティングソリューションズでは、毎年ERPの選定・導入に関する調査を実施していますが、先日「PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT」が公表されていましたので、今回はご紹介します。グローバルでのERP導入実態・トレンドを知ることができます。

日本でもERPは多くの企業が導入をしていますが、ERPの持つ標準機能を活かして業務運用を設計することで、その後のバージョンアップも問題なく実施し、それによってERP導入のメリットを享受している企業もあれば、機能不足への対応や使い勝手が向上するようにアドオン開発をすることで(バージョンアップは断念しつつも)ユーザーが円滑にERPを利活用している企業まで、色々な導入・運用形態があります。これらの企業にとって現在のERPをリプレイスする、また今後レガシーシステムをERPに置き換えようとする時に実態・トレンドをおさえておくことは良いと思います。

個人的に興味深かったのは、1つはERPの導入に「成功」したと回答している企業が多い一方で、実際には「予算超過」「期間超過」した企業も多かったという矛盾した調査結果です。レポートでもそのあたりの背景・理由について言及されています。もう1つはショートリスティング(提案依頼をするために絞り込んだーベンダー)にあがるベンダー上位5社のうち、最上位のTier1(3社)の潜在的な顧客に対して食い込もうとする4番目、5番目のベンダーの台頭です。

調査回答企業の概要

ERPの導入理由

調査回答企業がERPを導入した理由を上位から見ると1番目に多かった理由が「事業の業績を改善するため」が17%、次いで「古いERPシステム又はレガシーシステムを入れ替えるため」が13%、そして「複数のロケーションをシステムで統合するため」と「企業を成長のポジションに位置づけるため」が12%となっています。

理由 割合
事業の業績を改善するため 17%
古いERPシステム又はレガシーシステムを入れ替えるため 13%
複数のロケーションをシステムで統合するため 12%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P3をもとに筆者にて作成)

使用ユーザー数

導入したERPの使用ユーザー数の状況は、約半数の48%の企業のユーザー数が100ユーザー以内、36%の企業では101~1,000ユーザーの導入規模でした。

ユーザー数 割合
1~30ユーザー 26%
31~100ユーザー 22%
101~250ユーザー 18%
251~500ユーザー 7%
501~1,000ユーザー 11%
1,000ユーザー以上 16%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P3-4をもとに筆者にて作成)

売上規模など

業種としては公益、製造、商社・卸、小売、公共セクター、プロフェッショナルサービスなどで85%超を占めており、また50%が多国籍企業でした。売上規模としては、25百万USD以下の企業が32%、10億USD以上の会社が21%でした。

売上高 割合
~25百万USD 32%
25百万USD~50百万USD 21%
50百万USD~300百万USD 18%
300百万USD~500百万USD 6%
500百万~10億USD 2%
10億USD~20億USD 7%
20億USD~ 14%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P4をもとに筆者にて作成)

このように調査回答企業には使用ユーザー数と売上規模が大きい企業が存在する一方で、使用ユーザー数が少ない導入企業も多く存在しています。レポートではERPが持つ部門(機能)横断的なインパクト・便益を、厳しめに過小評価していることに起因して、組織全体で使用していないのではないかと(もっと組織全体で使用することでERPのメリットを享受できるはずというニュアンスで)評しています。

ERP満足度

全体の導入成果

ERPソフトウェアの全体的な満足度について、回答企業の60%が「成功」、30%が「どちらとも言えない、わからない」、10%が「失敗」と評価しています。

全体成果 割合
成功 60%
どちらとも言えない、わからない 30%
失敗 10%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P5をもとに筆者にて作成)

個別の導入成果

回答企業には個々の成果について、「とても満足」「満足」「どちらとも言えない」「不満足」「とても不満足」の5段階で評価してもらっています。個別の成果は「ソフトウェア全体の機能性」で68%、次いで「ソフトウェアの能力がビジネスニーズに合っていた」で59%の企業が「とても満足」または「満足」したと回答しています。逆に、「カスタマイズの必要姓の多さ」と「導入コスト」に対して29%の企業が「とても不満足」または「不満足」と回答しています。

項目 とても満足 満足
ソフトウェア全体の機能性 14% 54%
ソフトウェアの能力がビジネスニーズに合っていた 9% 50%
項目 とても不満足または不満足
カスタマイズの必要姓の多さ 29%
導入コスト 29%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P5をもとに筆者にて作成)

プロジェクト予算

全体の導入コストの状況については、53%のプロジェクトで予算を超過したとの結果が出ています。

導入コスト 割合
予算以下 12%
予算どおり 35%
予算超過(25%以下) 31%
予算超過(26~50%) 16%
予算超過(51~75%) 4%
予算超過(76%超) 2%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P13をもとに筆者にて作成)

予算が超過した理由別にみると、「プロジェクト範囲が広がった」が25%、「想定していなかった技術的または組織的な課題が発生した」が17%となっています。ただ、一方でERPプロジェクト全体の平均コスト金額は7.06百万USDで、前年度の10.5百万USDに比べると減少しています。

プロジェクト期間

加えて、ERP導入のプロジェクト期間について、調査回答企業の34%が「予定通りだった」とし、「予定よりも短期間だった」と回答したのはわずか5%でした。残りの61%の企業が「予定を超えた」としています。調査回答企業の平均的なERPプロジェクト導入期間は予定では14.2カ月ですが、実際には17.8ヶ月でした。

導入期間 割合
予定よりも早かった 5%
予定どおり 34%
期間超過(25%以下) 27%
期間超過(26~50%) 10%
期間超過(51~75%) 12%
期間超過(76%超) 12%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P14をもとに筆者にて作成)

ちなみに前年度はプロジェクト期間について「予定通りだった」企業が38%で、「予定を超えた」企業が54%でした。また実際のプロジェクト期間の平均は16カ月でした。

プロジェクト期間が予定を超過した原因は、調査回答企業の55%で「組織的な問題」があり、次いで「スコープの拡大」が52%、「技術的な課題」と「リソースの制約」が47%と続いています。

レポートでは、このようなプロジェクト予算と期間の超過は、次のような事項が欠如しているとコメントしています。

  • サードバーティーによるガイダンス(ユーザー企業とベンダー企業の橋渡しをするコンサルタントなど)
  • 堅実で実行可能な導入計画
  • 組織のチェンジマネジメント
  • ビジネスプロセス改善(ERP導入目的にあった「事業の業績を改善するため」の前提) など

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P15より、カッコ書きは筆者にて加筆)

まとめ1-システム本稼働はあくまでも一つのプロジェクトゴール

全体の導入成果で回答企業の60%が「成功」と評価していますが、以下で紹介する調査結果をみると60%という数字は高いという印象があります。レポートでも触れていますが、導入プロジェクトで疲弊したエグゼクティブ・導入チーム・エンドユーザーは、システムが稼働したことと、プロジェクトが完了したことにホッとして「満足」と回答しているとみています。

レポートでは、システム本稼働はあくまでも一つのプロジェクトゴールであって、きちんとした評価指標でもって成果を測定しなければいけないとしています。

でも個人的にはこのホッとする気持ちが良くわかります。本来はシステム導入が「予算内で」「予定通り稼働し」「機能的にも満足している/成果をあげている」の3つが揃ってはじめて「成功」したと評価することが客観的かもしれませんが、プロジェクトスコープ・リスクの管理、導入チームのモチベーションの維持、ユーザー要求拡大とプロジェクト追加予算を獲得するための社内調整、技術的な課題やアドオン開発プログラムの不具合の発生とその対応など、これらを何とか対処して、やっと稼働にこぎつけることができたならば誰もがホッとしてしまうと思います。

ベンダーの導入経験に対する評価

ERPベンダーの全体の導入経験について全体の69%の企業がレベルは別として満足しているという回答に対して、31%の企業が「適度に不満」または「満足していない」と回答しています。レポートではこの評価について、ベンダーが営業フェーズで約束したことと、その結果にギャップがあることに起因しているとしています。

ベンダー評価 割合
とても満足 9%
適度に満足 32%
満足 28%
適度に不満足 21%
満足していない 10%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P7をもとに筆者にて作成)

個人的な経験から、ユーザーの要求に対して対応するパッケージの標準的な「機能がある」ことと、「使用に耐えうる」こととは大きく違うという感触を持っています。ベンダーがユーザーに対して過度の期待を持たせがちな営業フェーズと現実的な解に落とし込む導入フェーズのギャップが大きすぎると問題になることが多いです。

ERPベンダーベスト5

サンプルベンダー

今回調査回答企業が選択したベンダーは市場で提供されている様々なソリューションから選定していますが、サンプルとして次のベンダーがリストアップされていました。もちろん、日本でもおなじみのベンダーが含まれています。

Abacus
Clarizen
ECi Solutions
Epicor
EZware
IFS
Infor
Jobscope
Lawson
Microsoft Dynamics
NetSuite
Oracle
Plex Systems
Sage
SAP

頻繁にショートリスティングにあがるベンダーと最終選考に残るベンダー

ベンダー選定のプロセスでは、まずベンダー(製品)を同業における導入経験や人員体制、財務状況などから多くのベンダーを評価(ロングリスティング)し、絞り込んだ段階で情報提供・提案を受け、機能充足度ほか詳細に評価(ショートリスティング)します。

今回の調査回答企業のベンダー選定プロセスで最も頻繁にショートリスティングに残ったベンダーの上位5社、およびその5社がショートリスティングに残ったときに最終的に選定された割合は次のとおりです。

ベンダー ショートリスティング 最終選定された割合
SAP 34% 59%
Oracle 26% 50%
Microsoft Dynamics 19% 48%
Epicor 7% 38%
Infor 5% 20%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P7をもとに筆者にて作成)

まとめ2-Tier2ベンダーの台頭

レポートではERPベンダー業界の階層構造の一番上に位置するベンダー(Tier1)はSAP、Oracle、Microsoftの3つ、EpicorとInforがTier2ベンダーと分類しています。Tier1の3社は営業体制、巨額の広告投資、ブランド力などから確固たる地位にあり、想定されたベンダーです。

個人的に注目したのは、Tier2ベンダーです。ショートリスティングに残ったあとに選定された割合をみるとEpicor(38%)とInfor(20%)はかなり健闘していると思います。

Epicorは2013年アメリカンビジネス賞の2つのカテゴリー、一つは「Best New Product or Service – Software – Supply Chain Management Solution」、もう一つは「Executive of the Year – Computer Software – More Than 500 Employees」でファイナリストに残るなど米国では伸びているようです。

以下、その他の調査で気になったことをピックアップしていきます。

導入形態でみるERPソリューション

クラウドERPという用語を目にする機会が増えましたが、今回の調査回答企業の導入形態では26%の企業がSaaSかクラウドERPの形態を採用しています。

導入形態 割合
オンプレミス 61%
SaaS 14%
クラウド 12%
その他 13%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P9をもとに筆者にて作成)

企業がクラウドERPの導入にまだ消極的なのはセキュリティ上の問題、情報や知識不足、データ漏えいリスクの問題が支障となっていますが、レポートでは従来に比べて、クラウドERPのプロバイダーはよりセキュアで信頼性のあるソリューションを提供していると説明しています。

なお、クラウドERPを導入した企業の60%が0-20%のコスト削減を、企業の24%が21-40%のコスト削減を達成したとのことでした。

ITコスト削減のベネフィットはあまり感じていない

実現したベネフィット

企業ではERPの導入時にビジネスケースの作成、KPIやその他の測定ツールへの合意に時間をかけています。ところで、調査回答企業の75%しか測定可能なビジネスベネフィットを実現していません。測定可能なベネフィットがない企業も含めて「プロジェクトベネフィットが見込みの50%以下」という企業が60%にのぼっています。

プロジェクトベネフィットの実現度合い 割合
計画したベネフィットの0%~30% 27%
計画したベネフィットの31%~50% 22%
計画したベネフィットの51%~80% 18%
計画したベネフィットの81%~100% 8%
ビジネスケースを作成していない 14%
測定可能なベネフィットがない 11%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P16-17をもとに筆者にて作成)

レポートではERPをより早く安価に導入したいという中では、プロジェクトでビジネスケースを作成したり、KPIの設定・測定に関する活動は拒否されているとしています。

実現したベネフィットの内容

実現したベネフィットを個別にみた場合、上位5つは①情報の可用性、②生産性の改善、③インタラクションの増加、④データの信頼性の改善、⑤重複業務の減少でした。ITコストの削減などを成果としてあげた企業は20%程度(上位12番目)でした。 これらのベネフィットの実現時期について、調査回答企業の24%で稼働後3カ月以内で実現したと回答しています。次いで稼働後半年以内で実現した企業は24%、稼働後7カ月~1年で実現した企業が30%でした。

平均的な投資回収期間は25カ月

投資回収期間

ERP導入に伴う投資コストの回収について、調査回答企業の27%が「投資コストを回収できていない」とし、23%が「2年以内に投資コストを回収できた」と回答しています。およそ2年から3年で回収できた企業が多く、平均の投資コスト回収期間は25カ月でした。

投資コスト回収期間 割合
1年以内 4%
1年 9%
2年 23%
3年 7%
4年 4%
5年以上 1%
投資コストは回収できなかった 27%
投資コストは回収できたかどうかわからない 25%

(出所:PANORAMA CONSUL2013 ERP REPORT P18をもとに筆者にて作成)

ERP導入に伴う投資は、導入後の生産性や効率性の向上、顧客サービスの改善・顧客獲得、企業によっては人員の削減によって回収されますが、その測定と評価は難しく25%の企業で「わからない」という回答になっています。

最後に

ERPの導入プロジェクトについて、何をもって「成功した」と評価するかは評価指標とその判断基準によりますが、今回の調査回答企業において「成功した」と回答している企業が60%ある一方で、「予算超過」した企業が53%、「稼働延期」した企業が61%、「プロジェクトベネフィットが見込みの50%以下」という企業が60%という状況をみると、あらためてこの3つの指標すべてにおいて計画どおりにERP導入を進める難しいということを実感しました。

今回と同じレポートを日本市場で日本のERPを加えて実施してみると面白そうですね。

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Akiyoshi KANEKO

業務プロセスを可視化(モデル化)し、その可視化されたドキュメントを中心においてプロジェクトを推進するアプローチを提唱している。経理・財務分野を主な専門領域として、業務プロセスの改善やシステム構築、組織体制の整備に関するコンサルティングに従事。プロジェクト現場では、「お互いの仕事を理解する」「現状の課題を共有する」「考えていることを相手に伝える」「新しいしくみを共有し実行まで落とし込む」よう関係者間の橋渡し役として活動する。著書『内部統制評価にみる「重要な欠陥」の判断実務』『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』
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