子会社経営者の不正防止策の例(神姫バス子会社元役員による不正行為に関する調査結果)

2012年11月に公表された開示すべき重要な不備の中で、神姫バスの子会社元役員による不正行為の事案は、子会社の元代表者が問題となった両子会社の代表者を兼務し、発注者と受注者の意思決定が同一人物によって行われていたことが組織体制面での大きな原因でした。また、元代表者の意思決定について異を唱えにくい雰囲気があったことや他の取締役が自らに課せられた善管注意義務に対する理解と認識が不十分であったことが背景として重なって起きてしまいました。

子会社の代表を兼務することは法的に問題もなく、また経営効率を考えた場合には有効なときもありますが、利益相反的な立場に立つ兼務状態を認める場合に、会社に損害を与えるリスクや不正リスクについて配慮が必要となります。今回も利益相反取引について承認を得るといった社内手続は実施されていたようですが、監視機能は形骸化していたことから防止することができませんでした。

経営者が内部統制を無視すると、その機能は無効化されてしまいます(内部統制の限界)。本件で調査委員会が検討・提言している再発防止策は、子会社経営者による不正を防止するために親会社が講じたものとして参考になると思われます。

以下、調査報告書より再発防止策の要点をまとめておきます。

なお、本記事は当該調査報告書に記載されている事象が一般的な会社でも起こりうる可能性を鑑み、全社的な内部統制(ガバナンス強化)の観点から実務上の参考になることを目的に整理しています。特定の会社の経営管理のしくみを批判・批評することを意図したものではないことをご了承ください。

不正行為の概要

  • 不当に工事代金を水増しした工事若しくは架空工事を発注する
  • 自らが支配する架空の建設業者又は懇意の協力請負業者にこれを受注させる
  • 架空の建設業者の銀行口座よりその代金のほぼ全額を取得する
  • 協力請負業者から架空工事又は水増し分の一部若しくは全部を元代表者個人に支払わせる

これら不正行為の実行のために、元幹部職員・知人に指示して架空業者の預金口座の開設と架空業者名義の請求書の作成、特定の協力請負業者に指示して架空又は水増し工事の見積書や請求書等を作成させていました。

(調査結果では大部分の不正行為は実質的に元代表者が独断で行ったものとしています)

再発防止策(1)子会社代表者兼務の原則禁止

  • 子会社の代表者の兼務を、兼務を認めないことにより業務上の支障が生じ、かつ、兼務による弊害が少ないと認められる場合を除き、原則として禁止する
  • 緊急やむを得ない理由により兼務を認める場合には、兼務期間中、兼務会社間の取引につき当社による特別監査を実施し、請負業者の選定、取引の必要性、工事代金の妥当性などを子細に監査する

再発防止策(2)グループガバナンスの強化

  • 親会社の役職員である子会社監査役が子会社におけるその意思決定の適正性を実質的に監視する
  • 親会社企画部門が子会社の事業計画や設備投資計画の妥当性、実現可能性について、事前審査し、その進捗状況についても検証し、かつ、事業計画遂行のための指導を行うなど子会社に対する統制を強化する
  • その統制状況については親会社監査役が監査を実施する
  • 親会社企画部門、監査部門のスタッフの強化を図るとともに、その権限を強化し、グループ内で責任をもった子会社管理及び監査を実施できる体制を整備する

再発防止策(3)内部公益通報制度の見直し

  • グループ全体で通報窓口を親会社である当社に一本化する
  • 通報者に外部の取引先も加える
  • 通報窓口として社内窓口の他に外部の法律事務所を加える

再発防止策(4)親会社による会計・経理業務支援

  • 親会社企画部門における会計・経理業務支援の範囲を拡大し、毎月又は四半期毎に請求書等帳票類の確認を行い、売上・費用処理の適正性を審査し教育を行う

再発防止策(5)コンプライアンス委員会の活動強化

  • コンプライアンス委員会において、グループ各社に潜在的に存在する不正行為のリスクを検討・整理し、不正行為の抑止策を検討する
  • グループ各社に対して実施する教育・研修の質を高め、役職員の法令順守意識の向上に一層努める