業務改善プロジェクトにおいて可視化した業務プロセスを活動の中心において進めるアプローチの効用は大きい

本日、株式会社サン・プラニング・システムズ主催のセミナーで「業務プロセスアプローチによる業務改善の考え方と事例」をテーマに講演をしてきました。

現代のように不確実で変化の激しい経営環境下においては、変化に対応する形で企業戦略を立案し、それを迅速に実現することが重要になっています。どのような企業戦略を採用するかは、その企業が置かれている状況によって様々ではありますが、採用した戦略を実行し、現場に落とし込むのは業務プロセスのしくみによって実現されます。

したがって、企業戦略に呼応して業務プロセスを整備・再構築することが、その戦略実行の成果を出すための重要成功要因となります。

これが今回のセミナーテーマを設定した背景です。

要約

意識している、していないに関わらず、企業において業務プロセスは可視化され、多くの場面で利用されている。しかし、フローチャートなどに代表される可視化ドキュメントは、一過性の成果物であったり、また、複数部門(個人)にわたって分散管理されているため、その有効性は限定的なことが多い。社内で企画・実行されるプロジェクトの当事者にとって、経営管理の高度化にもつながるような、業務プロセスの可視化手法とそれを有効活用するノウハウを身につけることが課題となっている。業務プロセスを一緒に可視化する作業を通じて、関係者間のコミュニケーションが促進されるため、業務プロセスを中心に、経営管理の高度化を目的とした各種プロジェクトを推進することが可能である。また、業務プロセスのモデル化は、柔軟でシンプルな技法を用いることに加えて、重要な業務プロセスに着目した分析とフェーズによってその内容を進化させることで、効率的かつ効果的に作成できる。さらに、既存ドキュメントの再利用と継続的な更新、関連ドキュメントの一体管理といった業務プロセスを発展的に活用することによって、プロジェクトはより円滑に運営される。

したがって、業務改善プロジェクト(情報システムの再構築や組織体制の見直しを含む)において、 可視化した業務プロセスを活動の中心において進めるアプローチの効用は大きい。

意識している、していないに関わらず、企業において業務プロセスは可視化され、多くの場面で利用されている。

  • 企業においては社内および社外の関係者へ、業務の全体像や流れを説明するために可視化した業務プロセスを使っていることが多い。
  • 具体的な例として、内部監査部門は、内部統制の評価報告制度に対応するため、監査人へ提出するリスク・コントロールマトリクスの補足説明資料として、業務フローチャートも作成し、それらを一緒に提出している。
  • また、営業部門は、営業拠点向けの業務運用手順とシステム操作を周知するため、業務マニュアルを作成し、それを配布している。
  • また、経理部門は、正確な財務報告を行うために、勘定科目の定義と会計処理を説明した勘定科目処理要領を作成し、関係者間で共有している。
  • さらに、情報システム部門では、ユーザーニーズがシステム化要件に反映されているか確認するため、業務フローチャートを作成して、ユーザーに業務運用上の問題がないか確認をしている。
  • このように社内または社外の関係者へ業務プロセスを説明するために、可視化したドキュメントを使用して、業務プロセスの概要を説明していることが多い。
  • これらから、可視化したドキュメントをコミュニケーションに役立つツールとして認識していると言える。

しかし、フローチャートなどに代表される可視化ドキュメントは、一過性の成果物であったり、また、複数部門(個人)にわたって分散管理されているため、その有効性は限定的なことが多い。

  • 業務プロセスの可視化に関して起こりうる問題として、例えば、“内部統制の運用状況評価において、現場の業務運用手順に変更があることを発見した。整備状況評価時のヒアリングでは変更なしと聞いていたので、業務フローチャートはメンテナンスをしていなかった ”といったことがある。
  • また、 “株式公開時に申請書類として営業部門の販売プロセスの業務フローチャートを作成したが、その後事業が拡大したときにメンテナンスをしていないため、その業務フローチャートは今の実態を表さなくなっている ”といった例がある。
  • また、 “全社的にERPを導入するため、業務フローチャートなど現状の業務を説明する資料を収集したが、各部門が独自にドキュメントを作成しているため、全体としての整合性がとれていないうえに、いずれの部門でも可視化されていない業務があった ”といった例がある。
  • また、 “システム導入プロジェクトの設計フェーズでは、業務フローチャートを描いた。しかし、開発フェーズにおいて機能変更・追加があったもののメンテナンスをしなかったため、出来上がったシステムがもともとどのような業務要件に対応したものなのか、ユーザーの観点で検証することができなかった ”といった例もある。
  • これらの事象は、自社/自部門の業務を説明する際に、業務プロセスを利用していることが多い一方で、業務プロセスの可視化ドキュメントがそのプロジェクト限りの一過性の成果物で終わってしまうため、また、業務運用上の必要性から可視化されたドキュメントも特定部門(個人)内で作成・管理されているため、次の活動に活かされていないことを表している。

社内で企画・実行されるプロジェクトの当事者にとって、経営管理の高度化にもつながるような、業務プロセスの可視化手法とそれを有効活用するノウハウを身につけることが課題となっている。

  • 業務改善のプロジェクト運営上、設計・構築フェーズ以降で発生する進捗・品質管理面の課題は、「現状業務の理解が不足していた/誤っていた」、「課題および改善の方向性の検討が不十分だった」など現状分析フェーズ段階の不備に起因することも多い。
  • 業務プロセスの可視化作業は、こうしたプロジェクト運営上の不備を避けるために有効であるものの、現状分析のための各種調査やヒアリング、ドキュメントの作成などの作業負荷が大きいことに加え、プロジェクトスケジュールやコスト面から時間的制約を受けることも多い。
  • したがって、社内で企画・実行されるプロジェクトの当事者にとって、関係者の理解・協力を得ながら可視化作業を進めるために、まずは業務プロセスを可視化する作業の意義を自身で理解する必要がある。
  • 次に、どのような可視化アプローチが有効であるのか、例えば、適用する技法や表記上のコツ、可視化の手順とプロジェクトフェーズとモデル化の関係などを理解する必要がある。
  • さらに、経営管理効率化の観点から、可視化した業務プロセスを有効活用するノウハウを身につけることが課題となっている。

業務プロセスを一緒に可視化する作業を通じて、関係者間のコミュニケーションが促進されるため、業務プロセスを中心に、経営管理の高度化を目的とした各種プロジェクトを推進することが可能である。

  • 業務プロセスの流れの中には、複数の部門/拠点、担当者、情報システム、インプット及びアウトプットデータ/書類、外部関係先が含まれている。可視化とはこれら現実の業務プロセスをモデル化(抽象化)することをいう。
  • モデル化された業務プロセスでは、細かな情報がそぎ落とされ、その骨格となる部分が抽出されている。その結果、個人が理解できる業務範囲が広がり、自分の担当業務以外の仕事を含め業務全体を把握することが可能となる。
  • したがって、モデル化された業務プロセスを使うことによって、プロジェクトメンバーは共通した認識の下、業務全体を鳥瞰して業務課題に取り組むことができる。
  • 具体的には、プロジェクトの分析フェーズでは、現実に起きている事象・問題について部門を超えた全社的な観点から改善の機会を抽出しやすくなったり、システム化の対象領域や要件の整理に漏れが出にくくなる。また、自社の実態に合った意味のある内部統制の整備を目指すことができる。
  • さらに、構築フェーズにおいても、改善後の業務プロセス間の整合性をチェックすることで業務切替時の課題を事前に検討できたり、新システムの受入テストの業務シナリオに使用することで業務要件から定義されたシステム仕様が実現されているかどうかを検証することができる。
  • これらは一部の活用例であるが、業務プロセスのような可視化された業務モデルをプロジェクト関係者で一緒に作り上げていく作業が、プロジェクト運営の効率化や品質の向上に寄与している。
  • つまり、業務プロセスの可視化作業は、「した方が望ましい」ではなく、「プロジェクト運営の効率面・品質面で生じる問題を未然に防ぐためにすべき」必須の作業といえる。

また、業務プロセスのモデル化は、柔軟でシンプルな技法を用いることに加えて、重要な業務プロセスに着目した分析とフェーズによってその内容を進化させることで、効率的かつ効果的に作成できる。

  • 業務プロセスを可視化する作業は、その作成メリットに比して、作成のための作業負荷とスキル習得が壁となって進まないことも多い。
  • しかし、業務改善作業におけるモデル化で必要になってくるのは、凝った作成技法や見栄えの美しいチャートではなく、誰にでも理解できる分かりやすさである。
  • したがって、業務プロセスのモデル化にあたっては、業務機能を柔軟かつ簡便化されたわかり易い表記ルールを使って作成する。
  • 次に、可視化した業務モデルをプロジェクトで効果的に使うためのアプローチとして2つポイントがある。一つは、詳細化された業務プロセスを網羅的に作成するのではなく、企業全体を構造化して捉え、経営を効率化する観点から、重要なプロセスを掘り下げる形で段階的に詳細化していくことである。
  • もう一つは、可視化する業務プロセスの内容を、プロジェクトのフェーズによって進化させていくことである。具体的には、①現状分析の段階では『As-Isの業務プロセス』として描き、②業務設計の段階では『To-Beの業務プロセス』として設計し、③定着化の段階では『業務運用マニュアル』として落とし込む。
  • 業務プロセスのモデル化は、柔軟でシンプルな技法を用いることに加えて、重要な業務プロセスに着目した分析とフェーズによってその内容を進化させることで、効率的かつ効果的に作成できる。

さらに、既存ドキュメントの再利用と継続的な更新、関連ドキュメントの一体管理といった業務プロセスを発展的に活用することによって、プロジェクトはより円滑に運営される。

  • ここまでの説明において、業務プロセスを可視化することによって、論点としているところを目に見える形でおさえ、問題認識・解決方向性を共有化することができることと、可視化する際のコツを説明してきた。
  • ここでは業務プロセスの再構築、それと同時に取り組まれる情報システムの見直し、組織の再設計をスムーズに進めるためのポイントとして、より発展的な業務プロセスの活用について説明する。
  • 活用形態の一つは、可視化した業務プロセスは他の経営管理の高度化を目的とした各種プロジェクト/業務の分析などでそのまま利用したり、他の可視化技法のインプットとして再利用することである。
  • このことと合わせて、プロジェクトで検討・決定された新しい業務設計・運用の内容を既存の業務プロセスに反映し継続的に更新していくと、常に最新の業務の仕組みが可視化された状態となる。
  • もう一つ活用形態は、プロジェクトの運営にあたって、各種ドキュメントを業務プロセスと関連付けて作成・管理することである。これによって、業務プロセスを可視化する効用(常に論点としているところを目に見える形でおさえ、問題認識・解決方向性を共有化しながら進めることができる)をさらに高めることができる。

したがって、業務改善プロジェクト(情報システムの再構築や組織体制の見直しを含む)において、 可視化した業務プロセスを活動の中心において進めるアプローチの効用は大きい。